第6回 2度目のインド

今年、4年ぶりにインドの地を踏んだ。新天地であるベンガルール(旧名バンガロール)は、デリーから飛行機で約2時間半。日本からの直行便はなく、乗り継ぎを経て到着するのは深夜が多い。空港に降り立ち、眠い目をこすりながら、インド人とともにぞろぞろと歩き、入国審査を待つ長蛇の列に並んだ。機械化が進み、審査時間がどんどん短くなっている他国の事情はどこ吹く風、パスポートをじっくりとのぞき込み、一人一人を審査していく。遅い。疲れ切った身体に子供が寄りかかり、手荷物がますます重く感じる。辛抱、辛抱。この忍耐こそがインド生活では必要だったと思い出しつつ、ひたすら待った。審査が終わり、預けた荷物を受け取って外に出た。外の空気を吸った時に、改めて、インドに戻ってきたのだと感じた。

ほっとしたのはつかの間のことで、今度はいくら待っても迎えの車が来ない。夫は運転手に何度も電話をかけ、いらいらを募らせていた。よくある行き違いで、ドライバーが遅れ、到着早々からバッドムードが漂っていた。しかし、こちらの雰囲気など全く気にせずにドライバーは荷物を積み込んで、出発した。いらいらするだけ損。忘れていたインド生活の心得のようなものをぼんやりとなぞりながら、新居となるマンションに向かった。

翌朝、部屋の中をよく見て回る。ベンガルールは南インドに位置するが、住宅の構造や間取りはデリーのある北部と変わらない。動線を配慮していないキッチンの配置や、どういう目的で作られたのかわからない棚などを見ても、不便さには慣れっこなので特に文句はないが、少しだけ持ち合わせていた新生活への期待感を目の前の現実とすり合わせる必要があった。

「チャナダール(ひよこ豆)とココナツの炒め物とプーリー(油で揚げたチャパティー)。新居の掃除のおばちゃんと妙に気が合い、彼女の昼ご飯を時々わけてもらっている。」

新居を探検中の私に、「やっていけそう?」と夫が聞く。やっていくも何も、インドに戻ると選択したのだから、やるしかないのだ。それに、どんな問題が起きても何となくおさまってしまう国がインドなのである。日本に帰ると、些細なことにもつい文句を言いたくなる私であるが、インドに来ると、インドスイッチが突然オンになり、問題解決への思考は別の回路を経由する。ノープロブレム。人はたやすく変わらないとは思うが、自分の中にある隠しスイッチのボタンを切り替えることができれば、ものごとに対して違うとらえ方ができるものだ。インドに来なければ、そんな柔軟な姿勢や寛容な気持ちは身に付かなかったのではないか。時々そんな風に思う。

 

さいとうかずみ/プロフィール
インドのIT都市ベンガルール(旧名バンガロール)在住。2007年より8年インドに居住してからの出戻り。在宅で食品や日用品を注文とデリバリーを完了する便利生活を満喫。現在、子どもと同じ学校に通うマンションの住人とともに、マンションの経営側や学校側とスクールバスの発着のことで大論争中。