第10回 プラスチック製のレジ袋廃止から10年

スーパーによくある大きめサイズの不織布のレジ袋を持つ男性

日本は7月よりレジ袋の有料化が始まっている。携帯用のレジ袋を持ち歩いているはずが、会計の段階で忘れたことに気づき「しまった」と思うことが度々ある。実際のところ、1枚数円で購入できるので、私同様に「今回限り」と買って済ませる人も少なくないだろう。

インドではプラスチック製のレジ袋は10年前に廃止されている。現在、店で買ったものを入れる袋は、自分で持って行くかその場で購入せねばならない。店側が用意しているのは、紙袋、使い捨てマスクにも使われる不織布製の袋、または丈夫な布製の袋である。ほとんどが有料だが、値段は1ルピー(約1.5円)から数ルピー程度と安い。忘れたら買えばいいという安易な発想が習慣化して、我が家でも1年足らずで相当数のレジ袋がたまった。どの素材も家庭用のゴミ袋として再利用はできないため、次回の買い物のレジ袋として使うのがせいぜいだ。中でも布袋は何度使ってもへたらない丈夫なものが多く、袋のストックは一向に減らない。

今ではすっかり定着した環境に配慮したレジ袋であるが、導入からの道のりは簡単ではなかった。ことの始まりは2009年。当時私が住んでいたデリーでプラスチック製のレジ袋の使用が突然禁止となった。一時的に人々は困惑していたが、我が家の近所の小さな商店でプラスチック製の袋が使われ続けていたように、十分に徹底されないまま時は流れた。変わらない状況に苛立ちを募らせた政府は、2013年に袋だけでなくフィルムや容器など、紙などに代替えが可能なプラスチック製品すべての製造、販売、使用を禁止するという強行策に出た。その決定により、製造側だけでなく、製品を扱う業界や消費者まで、とにかく大騒ぎとなった。

一体なぜ、そのような強引なやり方でプラスチック製品を排除せねばならなかったのか。環境への配慮も当然であるが、インドにはもう一つ軽視できない問題があった。牛によるゴミ袋の誤飲だ。街中で見かける牛たちは、人間から与えられる食べ物だけでは足りずに、ゴミ置場をあさり、ゴミ袋まで食べてしまっていた。袋類は胃袋に留まるため、徐々に食べ物が入るスペースがなくなり、死んでしまうというのだ。インドでは牛を神として崇めているため、何より牛の窮地は耐えがたい。そこで、13億人もの人口に対してプラスチック製のゴミ袋の扱いについて啓蒙するよりも、そもそも有害な製品自体を廃止してしまえばいいという発想で勝負に出た。お陰で今ではプラスチック製の袋が大量に散乱しているのを見ることがなくなった。

 

さいとうかずみ/プロフィール
2007年より約8年インドのデリーとその近郊に在住。その後、日本、インドネシアに約2年ずつ滞在して、2019年よりインドのベンガルールに戻る。コロナで一時帰国を命じられて待機生活中だが、インド国内の感染者は日に日に増えており、戻れない可能性も。