在住国でのコロナ感染を避けるため、という会社命令による避難帰国をして半年。我が家と同じく感染拡大が収束するまでという軽い気持ちで帰国した多くの日本人が、「いつ戻れるのか」「このまま本帰国か」という不安の中で暮らしている。今回もまた環境問題というテーマを外れて、「コロナ帰国、それから」について書いておきたいと思う。
この半年のうちに、元より帰任が近かった駐在員などは、予定を早めて本帰国をしてしまった。一方、事態が落ち着けば、現場へ戻って今まで通り働いてもらうという方針の会社も多い。しかし、そのタイミングとは、一体いつだろうか。コロナの収束が絵空事だということに誰もが気づいてしまった今、海外拠点をいつまで遠隔でコントロールできるのか、世界中に駐在員を送り出してきた日本の企業は決断を迫られている。
夫の場合、8月末にインドに戻った。インドの感染者数が世界第2位になったというニュースが流れる直前というタイミングで。決断の理由を会社は次のように説明したそうだ。4月人事で本帰国するはずの社員を戻して後任を送るタイミングに併せて、現地を仕切っていた夫たちには通常業務に戻ってもらいたい。私たち家族は同行を拒んだ。そもそも家族同行の許可が下りないとは思うが、子供を連れては行かれまい。私の住んでいたベンガルールは国内でもコロナ感染者が爆発的に増加している地域で、現地にとどまっていた日本人にも感染者が出た。会社の判断に憤慨し、夫の身をひたすら案じた。
不安や心配をよそに、一度無効になったビザが難なく下りて、夫は出発した。無事インドに入国後、PCR検査を経て、滞在先のサービスアパートにたどり着いたのだが、夫やその周りの人々といったら、さほど緊張感のある様子ではない。日本で報じられるインドのコロナの状況は惨たんたるものであるが、切り取られるのは、事実ではあれ全てではないのだ。夫の住むアパートは定期的に消毒作業がされ、ルームサービスを運んでくる人もフェイスガードをつけるなど、衛生面は徹底されている。PCR検査や簡易検査を依頼すれば、防護服をつけたスタッフが部屋まで出張してくる。それに引き換え、日本の私の住む地域では、高熱が出ようものなら、病院をたらい回しにされて、やっとの事でPCR検査を受けても、結果が出るまで炎天下の車中で待たされるそうだ。これから冬を迎えるが、車内で風邪でもひいたら目も当てられない。
パーテーションが設置されたオフィス。コロナ感染防止対策が徹底されている
夫たちは、9月中旬から隔日出勤が始まったが、オフィス内も飛沫感染を防ぐためのパーテーションが設置済みだ。会社とアパートを行き来するだけの生活をしている限りは、常に感染の危険にさらされているという風でもない。一時帰国のまま、時差のあるインドの業務をリモートで管理しながら、感染者の多数出ている本社のある地域への出社を命じられていた方が、不健康な勤務体制と疲労により、むしろ感染リスクが高かったのではないかと思うことも。何れにせよ、こうすれば大丈夫だろうという答えのない毎日ではあるが、過剰な決めつけや思い込みを手放すことで、得られるものもあるのかも知れない。
《さいとうかずみ/プロフィール》
2007年より約8年インドのデリーとその近郊に在住。その後、日本、インドネシアに約2年ずつ滞在して、2019年よりインドのベンガルールに戻る。コロナで一時帰国を命じられて仮の生活中だったが、この度3年間の帰国を決意。3年後はどこにいるのだろうか。