第8回 インドの環境問題に向き合う(2)~家庭ゴミの分別回収方法

2007年、ニューデリーにおける我が家のゴミ出し事情はこんな感じだった。一切の分別はせずに家庭内のゴミをポリ袋に入れ、朝一家の外に出しておくだけ。それは、当時の大家の指示通りであったが、そのあと誰がどのようにゴミを回収し、どこへ運ばれるのか全くわからなかった。ちょっと気味が悪かったのだが、分別やゴミの日といった心配をせずに済んだ。そのうち、床掃除に来ていたメイドが、ゴミ袋を片付けてくれることになったため、ゴミは一か所にまとめておくだけでよくなった。メイドは、ゴミ出しの前に袋の中を一通り見て、空き缶、瓶、ペットボトルなどを持ち帰っていたようだ。

徐々にインドの生活に慣れ、近所の人々の生活をよく観察するようになると、家庭のゴミは、大きな手押しの荷車で一軒一軒回収されて、近所のゴミ収集所に集められるのだと判明した。しかも、各家庭では、ポリ袋は使わず、ゴミ箱を家の外に持ちだして、中身だけ荷車の上にあけていた。そのゴミの殆どは、生ゴミや紙くずのようなもので、その他のものは既に分別がされているようだった。のちにわかったことであるが、生ゴミ類と分けられたのは、主に、新聞紙、瓶、缶、鉄類などで、これらのものは、不用品を回収するカバリワラという人によって、買い取りという形で回収されていた。分別などのルールなしと勝手に思い込んでいた私は、インドの家庭ゴミが回収されるしくみを知って随分と驚いたのだった。

家やアパートなど一定区域で集められたゴミを回収してまわるベンガルール開発公社のオートリキシャ

ちなみに、このカバリワラは現在も存在する。かつては、「カバリー、カバリーワラ」と呼びかけながら、手押し車を引いて回っていた彼らだが、今はスマホからオンラインで予約が可能になった。場所、時間、回収品を指定するだけで、条件にマッチした最寄りのカバリワラが家まで来てくれる。また、当時は言い値のようだった引き取り額も、例えば、ビール瓶は1本0.5ルピーのように値段表で決まっているため、取引はストレスがなくスマートにできるようになったのだ。

インドは、ポイ捨てされたゴミの多さから、ゴミ捨てに対するモラルが低いと思われがちだ。しかし、人々の一番身近な家庭におけるゴミの分別においては、環境問題が取りざたされるずっと前から、メイド、ゴミ回収の人、カバリワラなどが存在することで、リサイクル可能なものを仕分けることが実現してきたのだ。

 

 

さいとうかずみ/プロフィール
2007年より約8年インドのデリーとその近郊に在住。その後、日本、インドネシアに約2年ずつ滞在して、2019年よりインドのベンガルールに戻る。数年ごとに引越しを繰り返しているが、新しい環境にもすぐに慣れ、楽しいことを見つけられる子どもたちの柔軟性に救われる日々。