第21回 コロナ禍、治療に専念する

依然としてコロナウィルスの感染者が減らないアメリカ。この夏、15歳の次男は楽しみにしていた行事が、すべて無くなった。昨年の夏、水球部の練習で一日に7時間近くプールに入っていた。今年はコロナでハイスクールの集中練習はキャンセルされ、学校外のクラブチームでの短い練習が週に数回あっただけだ。かなり体がなまっているようだ。

国際大会が開かれる規模の市営プールが主催する、ライフガードプログラムに次男は合格していた。トレーニングを受けてから働くことを楽しみにしていたのだが、これもなくなった。水球クラブチームでクロアチアへ行くはずだったが、中止に。少しずつお金をためて、がんばっていたのに。

その代わりというわけではないのだが、自粛の間、次男は病気を治している。練習に出られなかったという罪悪感はなく、あまりやることはないので治療に専念できる。コンピューターゲームの時間は増えているのだが。彼にはウォルフパーキンソンホワイト症候群という、珍しい先天性心疾患があった。心臓の専門医によると、成人してから突然死する可能性があるという。

「コロナの影響で病院はあまり混んでいないから、来週に手術しちゃいましょうか」

先生が保険会社に緊急と申請してくれたので、わずか5日後に手術を受けることができた。小児専門のこども病院では、コロナのために患者一人につき付添の親は一人となっている。来院する人の数を制限するためである。

次男の手術が終わるまで、一人で待合室にいるのはしんどかった。手術が終わりその結果を外科医師から告げられて、泣き出したお母さんがいた。待っている親たちはソーシャルディスタンスを守っていたが、彼女の嗚咽は広い部屋に響いた。次男の手術は予定より二時間も長くかかったので、夫に一緒にいてほしかった。ようやく執刀医が現れて、「成功」と言ってくれたときには涙が出た。

心臓が一段落すると、ズーム(オンライン通話に使うZOOM)でアレルギーの先生と会う。この数日後に皮膚のテストを受け、ホコリのアレルギーがひどいと判明した。特別なシーツを使い、部屋は常にきれいにするように言われる。

小さい頃からすぐに風邪をひいて発熱し、イビキもかく次男。終夜睡眠ポリソムノグラフィー検査(睡眠中の体の状態を調べるテスト、検査施設に一泊する)を受けて、軽度だが睡眠無呼吸症気味であることが分かった。耳鼻咽喉科の先生にみてもらうと、咽頭が肥大しているという。7月の終わり、次男は扁桃腺と咽頭を切除する手術を受けた。麻酔は知り合いの医師に担当してもらった。先生から

「もう終わったよー、彼はがんばった!」

とメッセージが届いたのは、手術室に入ってから30分ほどだったので驚いた。

この手術から回復している間、彼は腰痛を治すために理学療法に通い始めた。オンラインだけではあるが、もうすぐ学校が始まる。それまでには健康になってほしい。コロナのため、次男は治療に専念できた休みにはなった。こんな時だからこそ、いいことにフォーカスして感謝しようと思う。

伊藤葉子(いとうようこ)/プロフィール
ロサンゼルス在住ライター兼翻訳者。米国登録脳神経外科術中モニタリング技師、米国登録臨床検査技師(脳波と誘発電位)。訳書に『免疫バイブル』(WAVE出版)がある。