270号/椰子ノ木やほい

悪夢のような2020年が終わろうとしている。

コロナ禍で平和な日々を破壊されてしまったケースは図りしれない。わたしの住むミシガン州では11000人以上の人がCovid-19で命を落とし、この瞬間も増え続けている。米国全土だとすでに30万人以上が亡くなっている。夫が他界したばかりのわたしにとって、身内の死ほどつらいことはないと身を持って痛感しているので、そんな経験をする人が連日増殖中ということに、胸が痛む。毎日発表される数字の裏にどれほど悲しみのドラマがあるのだろうと想像するたび身につまされる。

健康であっても、失職して途方に暮れていたり、感染に怯えながら激務に耐え続けることを強いられている医療関係者など、先の見えない恐怖と向き合いながら生かされている人々も少なくない。

自分の過去を振り返ると、これまでに何度かの苦境はあった。それでもそのたび、気を張って踏ん張りさえすればなんとかやり過ごしてこられた。そんなわたしだが、今年ばかりは強がることなく、これまでの人生で最悪の年だったといえる。コロナ禍での夫の癌宣告、闘病、別れ、と悲しい涙、苦しい涙、怒りの涙、悔しい涙、恐怖の涙、やるせない涙……流した涙の量はダントツだった。

それでも、自分の足で今もしっかり立っていられるのは、「おれたちがついているから」「なんとかなるさ」「ちゃんと食べてる?」「きちんと眠ってる?」と声をかけ続けてくれる人たちがまわりにいてくれたからにほかならない。状況がなにも変わっていないのに、言葉の魔法で顔をあげることができた。最低最悪の状況の中で、最高にたいせつなことを知り、感動と感謝の涙をたくさん流したのも2020年だった。

さて、米国では待ちに待った新型コロナのワクチン接種が始まった。1人でもつらい涙を流す人が減るように効果に期待したい。そして、新たな年2021年は希望の見える年となることを希求したい。

(アメリカ合衆国・ミシガン州在住 椰子ノ木やほい)