第6回 パッシブハウスでエネルギーを削減

ハノーファー市は気候保護に積極的に取り組んでいますが、そのひとつが住宅。市の都市計画や市有地売却による新興住宅地では、パッシブハウスを建てるよう指導しています。そのひとつ、市内南西部にある「ゼロ・エ・パーク」は、ヨーロッパ最大のゼロエミッション新興住宅地で、全戸330軒がパッシブハウスになります。

パッシブハウスとは、暖房をアクティブにする必要がない建物のこと。南向きに大きな窓を取り付け、太陽の熱と光を取り込みます。一方北側の窓は小さくし、余計な空気を逃がしません。料理や電灯、電化製品、人などから出る熱も活用します。窓は3重ガラスで、壁は断熱材を入れているため約50センチの厚さとなり断熱効果が高く、熱を逃しません。空気交換器により、屋内の空気は熱を取ってから外に出し、外気にその熱を与えて室内に取り込みます。熱の再利用率は9割にのぼり、家中一定の温度に保たれます。四六時中空気交換器が動いているため、窓は開けないようにしますが、もちろん開けてもかまいません。暖房エネルギーは1平米あたり年間、油1.5リットル分または天然ガス1.5立方メートル分、すなわち15kWhとなり、通常の建物の1割にすぎません。

パッシブハウスには立方体が一番効率的。屋根にソーラーパネルを設置しているうちも。

ドイツでは1990/91年に初めてのパッシブハウスが建設され、すでに20年以上の歴史があります。当時は特別な素材を使っていたため手間がかかりましたが、改良が重ねられ、最近では住宅のスタンダードのひとつとして量産品で建設できます。建設コストは通常より3-7%ほど高くなりますが、国や市町村などの補助プログラムがあります。また暖房費が節約できるので、8年ぐらいでもとがとれるといいます。

「ゼロ・エ・パーク」は、2011年に建設が始まり、すでに第一区画の59世帯が完成しました。第二区画は建設中で、最後となる第3区画の土地80軒分は2013年夏の販売直後に完売しました。家の大きさはさまざまですが、建坪平均160平米ほど。すべて南向きに建てられ、太陽光を最大限に活用するため家と家の間隔も指定されています。夏場は太陽光を遮るために、窓の外にブラインドが取り付けられています。

パッシブハウスのスーパー。冷蔵室は3重ガラス

住宅地内は、街灯にLEDを導入し、ドイツ初のパッシブハウスのスーパーマーケット・レーべができました。壁や天井に断熱材を使っているほか、エネルギー効率のよい冷蔵システムを導入しており、外がマイナス7度になるまで暖房は必要ありません。通常の3割CO2を削減できます。

住人のひとりは「この場所が気に入って、土地を買った。パッシブハウスに関心はなかったけれど、決まりなので建てることにした」と話しています。すなわちこの規定があるがゆえに、パッシブハウスが何か知らなかった人も建てることになり、ひいては地球への負荷を減らすことになります。このような行政主導も悪くありません。

田口理穂/プロフィール
12月に入り、いよいよ寒く、太陽が雲に隠れた暗い日が続いています。うちのアパートは築100年のレンガ造りで、天井が3メートル40センチと高く、隙間風が吹きます。暖房費がかさんで大変。これがパッシブハウスならどんなによいかと夢見ています。建物がすべてパッシブハウスになれば、ずいぶんエネルギーが節約できますから、断熱材を入れるなどの改装工事に国や自治体は補助を出しています。うちの大家さんも工事してくれないかしら。家賃が少々上がっても暖房費が下がれば十分もとが取れます。