類は友を呼ぶとはよく言ったもので、ワタシのまわりには食いしん坊が多い。みなさんそれぞれにさまざまな料理には詳しいわけだが、ブータン料理となると詳しく知っている人にはなかなか行き当たらない。
かくいうワタシもほんの数カ月前までは、ブータン料理といえば、すっごく辛いらしい……ということしか知らなかった。そのことを知ったのは数年前、中国語の監修でお世話になった先生から「実はブータンのゾンカ語についても研究していて、ライフワークとして毎年ブータンに行ってるんですよ」と聞いたときだった。
そう聞いて、ワタシがまず尋ねることといえば、もちろん「ブータン料理ってどんなんですか?」である。答えは「どれもこれも唐辛子たっぷりでホントに辛いんですよ」とのこと。根拠はないが、ちょっと意外だった。にも関わらずそれ以上は深追いしなかったのは、ワタシは辛いものにそれほど強くない上、いささかハードルの高いブータンへ旅する予定もさしあたりなかったし、日本でブータン料理が食べられるとも思っていなかったから。
しかし、その後2011年に美男美女カップル、若きブータン国王と王妃が来日した折には日本中の関心が集まり、さまざまな情報がもたらされた。さらには親しい友人がブータンへ旅したと聞いて、ブータンという国がにわかに身近になってきた。そして旅仲間を通じて、ブータンの人々や暮らしを撮影している写真家である関健作さんのことを知り、会ってお話を聞いてみたいなぁ~と思っていた矢先、いつも楽しくおいしい料理イベントを企画しているSoup Stock Tokyoさんから「おいしい教室」の案内が届いた。なんと、テーマはブータン料理。その上、ゲストは関さん! これは「おお~呼ばれてるな?」と勝手に思ってワクワクしながら申し込んだ。
今回の原稿が「番外編」となっているのは、日本にあるブータン料理店を取材したわけではなく、イベント参加だったから。さて、そのイベントはまずスライドを交えての関さんからのブータンの紹介からスタート。その間にもキッチンからはいい香りが漂ってくる。そして、満を持してブータン料理の登場~! と、あいなった。
トップの写真左下の鍋に入っているのが、代表的なブータン料理のひとつ「エマダツィ」。エマ=唐辛子、ダツィ=チーズなので、なんのひねりもなくそのまんまの料理名「唐辛子のチーズ煮込み」である。日本の味噌汁をはじめ、各国のソウルフード同様、各家庭の味があり、配分やアレンジはいろいろあるらしいが、基本的に材料は唐辛子とチーズ。ええ、赤いのも青いのも唐辛子ですとも。この料理の場合、唐辛子はスパイスではなく、なんと野菜!!だというから驚きだ。現地ではヤク(※)のチーズもよく使われるようだが、今回はインド産の牛乳のチーズで。
さて、いよいよ実食。口に運ぶ前に香りからして辛いエマダツィのはじっこのほうを、おそるおそる小さくかじってみる。乳製品ならではの味わいで、いくらか唐辛子の辛さがマイルドに……いや、ぜんぜんなってな~いっ!!! ヒーーーーッ! 水! 水っ! ゴクリ……ふぅううう。
ところが、辛さの中にも爽やかさと深い味わいがあり、意外と後を引く。現地では、たっぷりの蒸した赤米と共に食べるということで、さっそくその赤米にかけてみると、なるほどごはんがすすむ。さすが、いつも世界各地を飛び回り、さまざまな国の味をヒントに魅力的な料理をつむぎだすSoup Stock Tokyoのキッチンの主、桑折(こおり)さんのマジックハンドにかかると、遠い国の味もグッと身近になるというもの。人生初のブータン料理を堪能し、ますますブータンが身近に。いつか、本場で食べてみたいなぁ。
ちなみに、今回のブータン料理を作るにあたって桑折さんは関さんと、なんとあの人気番組「孤独のグルメ」のゴローちゃんも訪れたという、日本で唯一のブータン料理専門店「ガテモタブン」に足を運んで研究したとのこと。本場に行く前に、まずはここへ行ってみようかな。
※黒っぽい長い毛で覆われた大型の牛の仲間。高地に棲み、古くから家畜として利用されている。
◆関健作オフィシャルサイト
◆Soup Stock Tokyo「おいしい教室」
◆ブータン料理 ガテモタブン
≪凛 福子(りん ふくこ)/プロフィール≫
東京在住。日本とアジアを中心に世界各地を、旅モノと食べモノをメインテーマに飛び回る日々。近々、この暑い夏になんと台湾……それも未踏の台中へ足を運ぶ予定。あれも、これも食べるぞ~っ!!