第17回 ダルバート - दालभात dālbhāt - ネパール
ダルバート - दालभात dālbhāt - ネパール

どこの国にも、国民食と言われるような、もっともオーソドックスな定番メニューがあるものだ。日本ならもっと粗食だと一汁一菜と呼ばれる、ごはんに味噌汁におかず一品。日常的にランチなどで親しまれている「定食」は、おかずが一品ではなく、主菜、副菜、そして漬物などがつくのが一般的だろう。

このところ、仕事関連でちょっとネパールづいている私は、がぜんネパールの食事が気になりだした。どうやら、ダルバートと呼ばれるのがその「定食」らしい。ダル(daal)は豆、バート(bhaat)はごはん、つまり米を意味するらしいので、そのまま訳すと豆ごはんになるが、もちろん、えんどう豆の入ったあの日本の豆ごはんとはぜんぜん違う。

ひと皿にごはんとタルカリ(tarkaarii)と呼ばれるおかず、アチャール(acaar)と呼ばれる漬物が盛り合わされたものに、豆のスープが添えられるというのが基本の組み合わせ。これを総称してダルバートと呼ぶ。

タルカリはスパイシーな野菜の炒め物か煮物で、基本的には見た目も味もほぼカレー。ここにダルスープをかけて、好みの割合で混ぜ合わせて食べる。日本人である私は、子どものころに、ごはんに味噌汁をかけるのをあまり行儀のよいことではないとしつけられて育ったが、所変われば文化も変わる。それに、実はこの味噌汁かけごはん、通称「ねこまんま」はけっこうおいしい。もちろん、豆のスープをかけたダルバートがおいしいのはいうまでもない。

文化といえば、ダルバートそのものの話ではないが、ネパールの食文化は日本とはだいぶ違う。そのひとつが、基本的には朝と晩の一日二食、たいていは二食ともダルバートであること、そして、手食である。どちらもグローバル化の波に、変化しつつあるようで、若い世代はこの限りではないようだが、手食は残ってほしい食文化だと思う。以前、イベントで手食にトライしたことがあるが、なんというか、本当に五感で味わっている実感があって、このほうがおいしいと感じられるという意見が根強くあるのは、よくわかる気がする。

各国の定食がそうであるように、ダルバートも地方により、家庭により、オリジナルの味があるらしいが、東京でもおいしいダルバートが食べられる店があるという評判を聞きつけて行ってみたのが、恵比寿にあるソルティーモードという店。アジアの料理に詳しい友人も絶賛していたので期待値大だ。

夜は、ネパール料理はもちろん、お酒も楽しめるバーとして営業しているが、ダルバート目指してランチタイムに訪問。一応、日替わりらしいのだが「マトンは日本人にあまり人気がないから最近はもっぱら鶏のカレーがメイン」だとネパール人の店主がいうカレーは、マイルドなスパイス風味の煮込みといった感じで、深みのある優しい味わい。次々と入ってくるお客がみんな普通に食べているので、手食する勇気はなかったが、スプーンで食べても充分においしかった。

繁華街からやや離れたビルの4階でちょっとわかりにくいが、通りに出された立て看板が目印。やみつきになる人が多いという秀逸なダルバートをぜひお試しあれ。

ソルティーモード(Facebookページ)

凛 福子(りん ふくこ)/プロフィール
東京在住。日本とアジアを中心に世界各地を、旅モノと食べモノをメインテーマに飛び回る日々。今年も食欲の秋がやってきた。四季のある国に生まれてよかったと実感する秋の味覚の誘惑と戦う……いや、戦う前から負けっぱなしの私である。