あなたは毎年、自分の誕生日を祝っていますか? 日本にいたころ、小さい時や若い時は別として、歳を重ね、仕事に就き、忙しい生活を送るようになると、私にとって誕生日はそう「特別な日」ではなくなっていった。しかし、ニュージーランドに暮らすようになってからはどうしたことだろう。家族や友人の分も含め、誕生日をカレンダーに書き込み、祝ってあげたり、祝ってもらったりしている。ここでは多くの人が、老いも若きもその日を心待ちにし、周囲の人と楽しく過ごす。長く暮らすうち、私もニュージーランド人の姿勢に影響を受けている。
誕生日が集中する9月から年末
私の誕生日は10月だ。小学生の時、教室の壁にA4の色とりどりの紙が張られていた。紙の一番上には、「○○月生まれのお友達」とあり、該当する生徒の名前がその下に書かれていた。各月とも何人もの名前が連なっているのに、10月には私とミチヨちゃんの2人の名前だけ。何となく寂しかったのを覚えている。
ところ変わって、ニュージーランド。私が生まれた月の前後、9月から年末までの間、私たち一家は「誕生日ラッシュ」に見舞われる。家人をはじめ、周りの人の多くがこの時期に生まれているのだ。ところ変われば、誕生日も変わる。祝うのはいいのだが、その度ごとにプレゼントを買ったり、パーティーを開いたりするので、出費がかさむ。娘などは毎週末のようにバースデー・パーティーに出かけるので、プレゼント代が家計をひっ迫するのではないかとヒヤヒヤする。友人の中には、今週は娘、来週は息子、再来週は夫の誕生日という人もいて、大変なのは我が家だけではないことがわかる。
当初私は、この時期に生まれた人が周囲にたまたま多いのだろうと思っていた。しかし、どうも違うらしい。全国規模で起こっていることらしいのだ。
データでの裏づけもバッチリ
ニュージーランド統計局には、きちんとした資料として「誕生日のピークシーズン」についての情報がまとめられている。「あなたと同じ日に生まれた人はどれぐらいいるでしょう?」というコーナーでは、自分のことを検索することもできる。試しに、夫の誕生日を検索してみると、「同日生まれた人は1万3,900人。13番目に多い」と出てくる。
1年365日、どの日に何人が生まれているかを示す表もある。日ごとに色分けされていて、見ていて面白い。共有する人が多い日は濃いオレンジ色で、色が薄くなればなるほど、共有する人が少なくなる。9月のほとんどの日、10月の半分以上が濃いオレンジ色で、次いで12月、11月といったところ。驚くべきことに、私の周囲の人たちの誕生日の傾向と、正にドンピシャリ! 合うではないか。
生まれた人が1万4,200人と、ニュージーランド一多いのは9月30日。第2位は9月26日、第3位は9月28日と続く。トップ10のうち9つのランクまでが9月22日から月末までにあたっている。反対に最も生まれた人が少ないのは2月29日。うるう年のためだ。ほかに、クリスマスの12月25日、元旦の1月1日、アンザック・デー(過去の戦争で亡くなった人を追悼し、従軍した人に敬意を表する日)の4月25日の3つの祝日も、誕生日の人が非常に少ない。誕生と祝日に何か関係があるのだろうか。気になる。
夏はホットな愛のシーズン!?
どうして多くの人の誕生日が1年のうちの何ヵ月かに集中しているのかは、わかっていない。しかし、なぜ9月からの数ヵ月という特定の月に生まれているかは、科学的な根拠はないものの、国内ではひとつの説が信じられている。
南半球にあるニュージーランドは、北半球と季節が逆なので、9月生まれの子どもの母親が身ごもるのは、年はじめ、つまり夏だ。それもクリスマスから始まり、1ヵ月半ほどある夏休みにあたる。人々が皆、仕事から解放され、リラックスする時ともいえ、愛し、愛されるにはぴったりのシーズンというわけだ。
しかし、この説はあくまでニュージーランドのように、ちょうど休暇にあたる国でしか通用しなさそうだ。同じように生まれ月に偏りのある、英国や米国でも、9月生まれが最も多いからだ。北半球では、母親の受胎時期は冬の真っ只中ということになる。「人肌恋しいころ」といえばいえなくはないが、どうだろうか。
こうなると、なぜこれらの国に9月生まれが多いのか、気になってくる。私の周りだけかと思ったこの傾向、ニュージーランドはおろか、地球規模の風潮だったりするのかもしれない。
《クローディアー真理/プロフィール》
フリーランスライター。1998年よりニュージーランド在住。雑誌、ウェブサイトを中心に、環境、ビジネス、テクノロジー、文化、子育て・教育といった分野で、執筆活動を行う。ニュージーランド人の夫は仕事を休むほど、自分の誕生日を徹底的に祝う。その熱心さには、びっくり。