228号/河野友見

春の兆しを感じ始めたと同時に、マンションの修繕工事が始まった。15階建ての建物は屋上まで工事の足場が組まれ、グレーのカバーですっぽり覆われた。外壁のコンクリートの修理やベランダの床のタイルを全て貼り替えるなどするらしい。10数年に一度のことだから、かなり大規模な工事になりそうだ。

ベランダに置いてあるものはすべて片付けるよう言われたため、夫が育てていた鉢植えのうち、半分は処分して、半分は徒歩5分の距離にある私の実家に避難させた。埃や砂塵が舞うので、洗濯物も外に干せない。ロビーに貼り出された「洗濯物干し情報」なる掲示板を毎日チェック。◯が付いている部屋はベランダに干せるが、×が付いている部屋は干せない。我が家は7階にあり、ちょうどマンションの中央付近。ほとんど毎日×印が付いている。

我が家のベランダで作業する日は、ギーギーガーガーゴリゴリとものすごい音を立ててコンクリートに穴を開けていたり、何かをベリベリ剥がす音が聞こえたりして、リビングにいると心穏やかではいられない。しかも、ちょうど我が家のベランダの外に足場の階段が備えられており、朝から夕方まで作業員さんたちが上へ下へとウロウロする。我が家での作業がない日も窓を開ければ作業員の人とコンニチハするのだ。4歳の息子ときたら、外に人影を見ると窓を開けて「君たちそこで何やってるんだよ!」と話しかけるので、作業員さんは苦笑い。私も「すみません、すみません」と顔を出すはめになる。高層に住んでいると「窓の外に人がいる」という状況がまずないので、息子にとっても物珍しく、作業員さんが命綱をつけて慎重に作業しているという状態を知らずに気軽に話しかけてしまうのだ。

工事が始まる直前は、ベランダの鉢やガラクタを片付けねば! 窓ひとつ隔てて他人がウロウロするなんて! 夜間に足場の階段を不審者が登ってきたらどうしよう? と心配が尽きなかったが、ここはひとつ前向きに捉えてみることにした。

まず、ベランダのものを処分すると気持ちがスッキリしたので、これを機に室内のガラクタも断捨離。売れるものは売るようにしている。そして、鍵が開けっ放しのことも多かったベランダの鍵も締めるようになって、高層階にいるため薄れつつあった防犯意識を持つようになった。マンションの修繕工事によって、我が家の防犯や整理整頓に対する意識の向上も図る好機にしたいと思う。さて、工事は半年後まで続くので、いつまでその意欲を保てるかが問題なのだけど。

(日本・広島在住 河野友見)