連載『ミシガンの風に吹かれて』
文・写真:椰子ノ木やほい(アメリカ合衆国・ミシガン州在住)
パレード

ミシガン州の中央あたりに位置する、人口3,000人ほどの小さな町、クレアを訪ねた。クレアはアイルランドからの移民が多い地域で、毎年、セント・パトリックスデー前の週末には小ぢんまりながらも盛大なアイリッシュ・フェスティバルが開催される。

セント・パトリックというのは、アイルランドにキリスト教を広めた聖人のことで、3月17日は彼の命日であり、アイルランドをはじめ、世界中のいたるところでこの日を祝うためのイベントが開かれる。アメリカでも、ニューヨークやシカゴといった大都市で開かれるセント・パトリックスデーのパレードは毎年テレビのニュースなどで伝えられるのでご存知の方も多いだろう。

アイルランドからの移民が多くはいそうもない日本では、あまり馴染がないかもしれないと調べてみたところ、意外や意外!昨今では日本全国の大都市だけでなく、小さな地方都市でさえ、セント・パトリックスデーを祝うアイリッシュ・フェスティバルが催されていると知り驚いた。クリスチャンではなくとも盛大にクリスマスを祝う日本人にとって、お祭りの理由は何でもいいのかもしれない。一方、クレアの住民はアイリッシュ系が多いので、本家本元、アイリッシュの血が騒ぐフェスティバルにちがいない。

ワンちゃんもグリーンの帽子

このお祭りの特徴は、なんと言ってもアイルランドのイメージカラーとされるグリーンつまり、“緑色”なことだ。お隣のイリノイ州シカゴでは、シカゴ川を色素で緑色に染めてしまったりするほどだ。また、売られるビールも緑色という拘りようで、この日ばかりは、グリーンのものを身につけていないと居心地が悪い。

全てグリーンで演出

クレアに到着すると案の定、町全体がグリーンとシャムロック(三つ葉のクローバー)で溢れていた。アイリッシュダンスやコンサート、パレードなど数々のイベントが繰り広げられいつものひっそりとした町が近隣からの訪問者で賑わっていた。小さな町だけに、パレード自体は、ニューヨークやシカゴのソレとは比べ物にならない規模だが、田舎町ならではののどかさが漂い、アットホームなフェスティバルといった雰囲気だ。アイルランド系の移民にとって、セント・パトリックスデーを祝うということは愛国心の現われでもあり、とても意義深いことなのだろう。

そして、クレアと言えば昨年、たいへん話題になったドーナツ屋さんがあるので紹介しよう。

Cops & Doughnuts

その名も “Cops and Doughnuts ” 直訳すると、「警官とドーナッツ」という屋号だ。お店の看板には“Internationally known” (国際的に知られている)と謳われている。小さな町のドーナツ屋さんにしては、昨夏、全米じゅうでニュース報道されたので有名にはちがいないが、国際的に有名か?というと、ちょっと大袈裟ではと思い調べてみたら、日本語でもスポニチの記事を発見したのでまんざら、誇大でもなさそうだ。

記事にもあるように、創業113年という老舗のドーナツ屋さんが店じまいを強いられていると知り、地元の警察官9人が一致団結してビジネスを買い取り、ドーナツ屋さんの窮地を救ったのだ。アメリカでは、「警官はドーナツが好き」という俗説があるため、冗談のようなホントの話にまたたくまに有名なドーナツ屋さんとなってしまった。

Cops & Doughnuts

ドーナツの甘い香りに包まれた店内は“話題のドーナツ”を求める、フェスティバルを訪れたお客でごったがえしていた。さっそくドーナツとコーヒーを買い、店内で食べていたら、オーナーである、9人のうちの1人の警官が「夜勤明けの今日だけど、今からはドーナツ屋さんなんだ」と気さくに話しかけてきた。できたてのドーナツはホームメイドな味わいでふわふわでおいしかった。

アイリッシュ気質の陽気さに触れ、観光客気分でパレードを楽しみながら、安くておいしい、話題のドーナツを食べるというシアワセな昼下がりだった。


≪椰子ノ木やほい/プロフィール≫
フリーランスライター。1997年のんびりゆったり子育てとシンプル&スローライフを求めて、家族(夫・子ども4人)で南太平洋の小国サモアに移住し、4年間の南国生活を楽しむ。2001年より、アメリカ合衆国・ミシガン州在住。HP「ぼへみあんぐらふぃてぃ」、サモア在住時の暮らしを綴った電子本『フィアフィアサモア』はでじたる書房で発売中。世界各地からの子育て事情を伝える『地球で子育て! 世界のお父さん・お母さんバンザイ』 サイト運営・管理人。