第3回 みんなで一丸になってダンス、ダンス!

娘が小学生のころ、同年代の女の子を持つ母さんに、子どもがどんなお稽古事をしているかを尋ねたことがある。Aちゃんは「バレエ」、Bちゃんは「ヒップホップ」、Cちゃんは「ジャズダンス」……驚くべきことに、返ってきた答えのほとんどが「ダンス」。女の子は音楽に乗って体を動かすのが好きだし、「トゥシューズ」を履きたいと夢見る子も多い。親にしてみれば、発表会で愛娘がかわいいコスチュームを着て踊る姿を見てみたいと思うのは自然なことだろう。ダンスを習う女の子が多いのは納得できるのだが、その数たるや! なのだ。

楽しく踊りたいか? 目標に向かって踊るか?

ニュージーランドで習えるダンスのジャンルは、バレエ、ジャズ、タップ、コンテンポラリー、ミュージカルシアター、ヒップホップ、アクロといったところだ。しかし、最低年齢の4歳のクラスはジャンル分けになっておらず、素人目にはお遊戯のように見えるが、ダンスの基礎の基礎を楽しく学ぶのが一般的。5歳ごろから、自分の好きなジャンルのクラスを取り始める。費用は週2回のレッスンで、1学期(10週)に200NZドル(約1万5,000円)といったところ。お稽古事の中では、安い方ではない。

ダンスの基礎の基礎、バレエ。タップダンスやコンテンポラリーダンスをメインで習う場合でも、バレエの下積みがある方が有利

子ども向けのスクールには、「あくまで楽しく踊る」ためのところ、「目標に向かって踊る」ためのところと2種類ある。ニュージーランドでは後者のタイプが多いといわれる。「目標」というのは「試験」であり、国内ベースの、ニュージーランド・アソシエーション・オブ・モダンダンスのもの、英国ベースの、ロイヤル・アカデミー・オブ・ダンス(RAD)のものの2種類がある。

試験の良し悪し

我が家の場合、4歳で娘がバレエを始めたいと言った時、楽しみながら、リズム感やバランス能力など、体のコーディネーション力がつくならばとOKした。ダンスでは礼儀が重んじられる点も、親としては気に入っていた。スクールでは先生に敬意を払わなくてはならない。レッスンの始まりや終わりには必ずあいさつをする。こちらでは先生をファーストネームで呼ぶことが珍しくないが、ダンスでは必ず、「Miss」などの敬称を付けて呼ばなくてはいけない。

最初に通ったのは、「あくまで楽しく踊る」タイプのところだった。しかし数年経つと、お友達の影響もあって、試験を受けてみたいと言い出した。私はわざわざプレッシャーの中に飛び込まなくてもいいのでは、と思ったが、娘の意思を尊重して、行っていたスクールの先生に退校したい旨を話した。すると、引き止められこそしなかったが、「なぜ試験がないと、がんばれないのか?」と嘆かれた。

チャレンジに一緒に立ち向かう

先生の指摘に、一時は「確かにそうかもしれない」と考えたものの、転校後、「移らせてよかった」と思った。年齢によって、お稽古事に求めるべきことは変わってきていいのでは、と。幼稚園ぐらいの時は、「楽しい」ということがメインで構わないと思う。しかし、年齢が上がると、はっきりした目標を与えれば、それを意識して練習に打ち込むようになる。

目標=試験は日程の面でも、求められるテクニックの面でも、自分の意志では変更のしようがない。「いつかこれができるようになればいいな」ではなく、「〇〇までにこれができるようになりたい」という方が、前進できる気がする。前進できてこそ、面白さがあるのではないだろうか。

目標に向かって、努力を重ねる子どもたちの姿勢は微笑ましい。クラス全員が同じ試験で成果を上げようと真剣に取り組む。試験なので、もちろん競争が伴う。同じ合格でも、「ただの」合格なのか、「良い成績で」合格なのか、「優秀な成績で」合格なのかといった違いが出るからだ。それでも、子どもたちは誰もほかの子を蹴落とそうなどという気持ちは持っていない。できないところ、わからないところはお互い教え合い、練習する。誰かが病気になったり、けがをしたりして、レッスンを欠席することがあれば、欠席した子に何を習ったか後で教えてあげる。子どもたちの正々堂々した態度は、私の目にまぶしく映る。

女の子のあこがれ、トゥシューズ。個人差はあるが、ニュージーランドでは、10~12歳ぐらいで先生から履くことを許されることが多い

子どもたちは長年、ダンスを習うことを通じて、「互助の精神」を学びとっていく。将来他者と協力し、共に前進していこうとするに違いない。その姿勢は彼ら彼女ら自身だけででなく、社会にとってもプラスになると思うのだ。

クローディアー真理/プロフィール
フリーランスライター。1998年よりニュージーランド在住。ウェブサイトを中心に、環境、ビジネス、子育て・教育といった分野で執筆活動を行う。在住の、人口約7万5,000人の町には、ざっと数えただけでも、子ども向けのダンススクールが10校もあり、ダンス人気を裏付けている。