習いごとの中で、日本での私の経験と、ニュージーランドでの娘の経験に差があるなぁとつくづく感じるのがピアノだ。「ドレミ」の代わりに、アルファベットを使うのは言うまでもなく、練習曲の選択やレッスン方法など、娘のレッスンに付き合うと、よく「ふぅん」「へぇ~」と感嘆詞が頭の中を渦巻く。もっとも私がピアノを習ったのは、何十年も前のことであるのはいうまでもないのだが……。
ピアノなどの楽器は、自宅での練習が大切。「時間は短くてもいいから、毎日練習しなさい」と先生は言う
ピアノに早期教育はナシ?
「ピアノを習わせたい」と、5歳の娘を連れて、小学校の音楽の先生兼ピアノ教師に切り出したら、「まだ早いんじゃない?」と即答された。日本では、ピアノの早期教育が当たり前のように行われているので、先生の答えは意外だった。後にほかの親に、この国では10歳前後で始めるのが一般的と聞いた。
教育省が小・中学生に無料提供するキーボード・レッスンに、試しに2学期間連れていき、娘が「習いたい」といっていることを話すと、先生は「じゃあ、テストをしてあげる」と言ってくれた。「テスト」というので、たいそうなものかと思ったら、ピアノ云々以前に先生の指示通りのことができるかを試されたのだった。その結果、娘は無事レッスンを開始した。
最初はピアノがなかったので、手持ちのキーボードで練習していた。しかし、ペダルを使う曲を弾く段になってピアノに切り替えた。こう書くと簡単に聞こえるが、ピアノは高価だ。すると、先生からアドバイスが。セカンドハンドだが、半年間レンタルして気に入ったら、買い上げるシステムを、町の楽器屋さんが行っているというではないか。もちろん買う段には、賃貸料として支払った金額を差し引いてくれる。こうして我が家にやって来たのはヤマハのセカンドハンドで、10年ほど前の購入時の価格で2,500NZドル(約18万円)ぐらいだったと記憶している。
四角四面でないレッスンに好感
レッスンを正式に始めてみると、使う楽譜はどれもこれも聞いたことがないものばかり。バイエルとか、ブルグミュラーとか、ツェルニーとか、日本で定番になっているものは何1つなく、私はちょっと寂しい気がした。
娘が練習する曲は、足音をとどろかせてやって来る恐竜の様子や、サイクリングをしている時の気持ちよさを表現するなどした、子どもにとって親しみがある主題のもの。近年作られた小曲だ。音楽専門店に行っても、初級者用にはこのタイプの楽譜が並んでいるので、多くがこうした曲から始めるのだなと気づいた。
ニュージーランドで使われている楽譜類。小さい子ども向けの理論の本(上)、ジャズ系も入った練習曲の本(中)、流行りのポップソングを弾くための本といろいろ活用する
数年レッスンを続けると、ジャズあり、ポップスありになった。日本でピアノ教師をしている友人に話すと、「バラエティーがあって、楽しそう」とうらやましがられた。
だいぶ弾きなれ、小学校高学年ぐらいになると、「次は何が弾きたい?」と先生が尋ねてくれるようになった。先生に自分の好きな曲を言って探してもらうもよし、自分で見つけて持ち込むもよし。先生も生徒がどんな曲が好きかに興味があるようだ。たまたまニュージーランド人の男の子と、娘が日本のアニメの曲を各々選んだ時には、「日本の現代作曲家って素敵な曲を書くのね!」と、先生はしごく気に入ってくれた。「音楽好き」の一個人としての面が垣間見え、うれしくなった。
練習曲だけでなく、弾き方も生徒の考えを取り入れる。もちろん譜面にはどこで強く弾くかや、ゆっくり弾くかは、演奏記号で指示がある。それでも先生は、「どういう風に弾くのがいいと思う?」と生徒に考えさせることがある。曲に対する、各人の解釈を尊重してくれているのだな、と感心する。
音楽理論もあって、レッスンは盛りだくさん
娘のレッスンには結構厳しい面もあるように思う。例えば、小さい時から音楽理論を叩き込まれることだ。例えば、楽譜を見て、調号、関係調、トニック・コード、サブドミナント・コード、ドミナント・コードなどがすぐにわかるように訓練したり、曲を聴いて、どの時代の曲なのかを理由と共に説明したりと、「ピアノのお稽古」には、弾く以外にもたくさんやることがある。
希望者には国内や海外ベースの試験も用意されている。娘が受けている英国のトリニティ・カレッジ・ロンドンのグレード試験には、初歩レベルであっても、演奏に加えて、初見、聴覚、即興、音楽知識の4分野から2つを選んでの受験となる。弾くのが上手だけでは通用しない。
ほかの習いごとと比べ、レッスン費は高い部類に入る。娘のレッスンに払っている、30分で25NZドル(約1,800円)というのは、一般的な額のよう。1回30分のレッスンであれば、学期ごとで250NZドル(約1万8,000円)、つまり1年で1,000NZドル(約7万円)するわけだ。当然、ピアノを買う費用も加わる。それでも、ピアノを楽しむ娘を見ると、やりくりは大変でも習わせてよかったと思う。
《クローディアー真理/プロフィール》
フリーランスライター。1998年よりニュージーランド在住。ウェブサイトを中心に、環境、ビジネス、子育て・教育といった分野で執筆活動を行う。母の勧めで3歳からピアノを始めたものの、中学受験にかこつけて、レッスンをストップ。習いごとは好きなことをしなくてはダメとつくづく感じる。