第4回 「愛し合うための努力」してますか?

在仏歴30年のプラド・夏樹さんがフランスで体験、垣間見た性にまつわる考察を書かれた、『フランス人の性 』を読み、夫婦、カップルの在り方をあらためて考えさせられた。本書は、彼女の経験のみならず、フランス人の性が、宗教や政治的背景からどう変化してきたかなどが歴史を紐解きながら、多角的な視点でまとめられている。

地球丸編集スタッフでもあるプラド・夏樹さんの著作『フランス人の性』地球丸編集スタッフでもあるプラド・夏樹さんの著作『フランス人の性』

なかでも、フランスと日本のセックス事情を比較している項目はかなり興味深い。現代のフランスと日本では夫婦、カップルでいることのプライオリティが大きくちがうことがわかる。いや、70年代は、フランスでも50歳以上の既婚者のセックスレス率は高かったようだが、2006年にはそれが激減する。つまり、フランス社会は急ピッチで性を重んじる社会に変成を遂げたことが伺える。

昨今のフランスでは結婚に拘らない事実婚が主流となっていることから、性的な結びつきこそが、カップルであることの証といえそうだ。逆にいえば、結婚という法的制度にしばられないゆえ、愛がないのに仮面夫婦を演じ続ける必要はない。愛情関係をキープするためには、お互いが「愛し合うための努力」を続けなければいけない。カップルの形はさまざまでも、そこには常に緊張したエロスのある、いわば「愛人関係」が基本であり、面倒だからセックスレス、それでいて仲良く一緒に、静かに年をとろうなんて考えは甘いと、夏樹さんはバッサリ!!

フランスではカップルの時間を楽しむために、子どもなしでバカンスを取るケースが56パーセントにも及ぶそうだ。「パパやママには二人だけで過ごす時間も必要」と子どもに真実を伝えることは必要と説くが、はてさて、日本では家族で旅行にでかけることはできたとしても、子を置いていくとなると社会構造上、また社会通念上も、かなりハードルが高いのではないだろうか。

「働き方改革」という言葉はからまわりし、多くは生きるために仕事に追われる。加えてジェンダーギャップ指数がどん底に低い日本では、家事負担は女性に大きくのしかかり、愛すべき男は、時には子どもより手のかかる駄々っ子にさえ映る。子どもができるとお互いの呼称もパパ、ママ、お父さん、お母さんとなり、その後、永久にそう呼び合うことも珍しくない。つい先日も、日本の友人が「お父さんとの関係がうまくいってないのよね」というので、今さらなぜお父上なのかと思ったら、ダンナさまのことだった。

もともと、ハグやキスといったスキンシップを重んじる欧米諸国と異なり、人前でベタベタすることを良しとしない日本では、いちゃつくこと=いやらしい、恥ずかしいという感覚すらあるだろう。スキンシップのないことが当たり前の環境では、性的アタッチメントがないことが、「愛情関係の危機」とも考えず、気づけば国民の半数近くはセックスレスという現実。レスの理由は、男性は「仕事が忙しいから」、女性は「めんどくさいから」というのだから、日本人が性をいかに二の次にしているかがわかる。もちろん当人同士が良ければそれで良いとも言えるが、実際には「双方が納得」しているケースばかりではないことも推察できる。かといって、心を開いてその不満を語ることができるカップルばかりではないことも想像に難くない。片方が良くとも、片方が不満に思っていれば、幸せな生活とはいえないだろう。

愛情を持続させることは難しい。ストレスフルな日常だからこそ、レスになるのはもちろんわかるが、だからこそ、愛しあう努力をしなくては、愛情はどんどん消滅してもおかしくない。愛を表現するためのコミュニケーションを怠ることから、愛情が薄れ、浮気に走るというケースは少なからずありそうだ。自分の意志で「いっしょに生きる」ことを選択しているのだとすれば、年齢に拘ることなく、お互いが愛情を感じて暮らすべきだと、フランス流から学びとれる。

人生をおもしろくするも、つまらなくするも自分次第。せっかく夫婦、カップルで生きることを選んでいるのなら、“かつての恋人”に悪態ついたり、邪魔者扱いするより、慈しみ、助け合い、お互いを尊重しつつ寄り添って生きていたいものだ。もろろん、完全に愛が失せた関係なら努力でどうにかなるものではないだろうが、少なくとも、お互いに関心を持ち続けることができれば、仮面夫婦にはならないはずだ。そもそも愛がなければ思いやりが持てるわけもない。

わが夫婦は、4人の子育てが終わった結婚生活35年の熟年だ。振り返れば、空気のごとく“家族”として長年暮らしてきたが、子どもたちが巣立ってやっと、“夫婦”に戻った気がしている。何年か前に子どもが巣立った祝いを兼ね、オトナ限定のカリビアンリゾートにでかけた。カリブ海沿岸には “アダルトオンリー”のリゾートホテルも多く、米国、カナダをはじめとし、世界各国から「オトナの時空」を楽しみたいカップルが集まって来る。

脂肪をしっかり蓄えた老夫婦もビキニ姿で手を繋ぎビーチで戯れる光景は、日本ではあまり見られないだけに、その微笑ましさには感動すら覚えた。ディナーには最高にドレスアップしてレストランに表れ、その後、ナイトクラブでドキッとするようなセクシーなスタイルでダンスを楽しむ。年齢なんか関係ないのだ。わたしには、“お互いにとってのプリンス、プリンセス”であることを再確認するためにそこでの時間を楽しんでいるように映った。以来、わが夫婦も、そんな時間を持つことは夫婦にとってたいせつと考えるようになった。

ジャマイカの夕日。たまにはロマンチックなオトナだけの時間を持つことも必要では?ジャマイカの夕日。たまにはロマンチックなオトナだけの時間を持つことも必要では?

気持ちを持続させるためには、ちょっとした努力とエッセンスも必要なのではないだろうか。フランス人がバカンスをだいじにする意味はきっとそこにあるのだろう。夫がポツリと言った。「夏樹さんの本を読んでからちょっとやさしくなっていない?!」と。「そんなことあるわけない」と答えつつも、確かに、読みながらちょっぴり反省したかも……??!

椰子ノ木やほい/プロフィール
今も夫婦で仲良く暮らせているのは、「あのときの旅のおかげだよね」というほど、休暇を二人で楽しむことは重要なこととなっている。ただし、観光型の旅は、何を食べようとかどこに行こうというだけで意見が食い違い、仲良くするには逆効果なので、滞在型で何も考えなくてもよいオールインクルーシブが気に入っている。