第11回 アメリカの履歴書

気がついたら20年以上アメリカに住んでいる。日本がこの国から学ぶこと、学ばなくていいこともあると思う。私がアメリカ流のほうが好きなのは、就職の仕方だ。

基本的に、ポジションに空きが出たら補充する。日本のように、ある時期に学生がスーツを着て同時に就職活動するのではない。雇い主は即戦力を求めている。そのためアメリカでは学生時代にインターンシップで経験を積む。日本のように、企業や雇い主がしっかりと育ててくれることはない(最近では、日本も変わっているようだが)。会社命令の転勤には絶対服従ということもない。仕事しながらパートタイムで学校に行ったり、キャリアチェンジしたり。もちろん日本のように、同じところでずっと働く人もいる。働き方は多様で、転職は普通だ。

アメリカの履歴書は、英語でレジュメ(resume)と言う。日本とは全く違う。決まった用紙に書くのではない。年齢、性別、既婚か未婚かなど一切書かなくていい。また面接でこういった質問をするのは法律違反だ。求人情報でも、日本のように「年齢は35歳まで」と書くことは禁止されている。写真もはらない。

ひな形のような物がダウンロードできるようになったが、基本的には自分できっちり作成するのが米国式だ。だからレジュメにいかに個性を出すか工夫する。アート関係の仕事の人は、ビジュアルに凝った物を作るそうだ。私達のようにニッチな仕事をしている人には、それなりの形式がある。登録試験に合格した技師であるか、どんな検査ができるか、他に話せる言語があるか。専門用語が多いので、レジュメを作成すると先生とクラスメートに見てもらっていた。コンピューターに入れ、たまに情報をアップデートする。他にいい仕事が見つかったら、すぐにレジュメを送れる状態にしておくためだ。アメリカではこれが常識だと聞いた。

英語が母国語である夫が私の履歴書を見ても、専門的すぎて分からない部分がある。それでいいのか少し疑問があった。最初に目を通す人事は、ちゃんと理解できるのだろうか?

大学病院にいた頃、就職フェアがあった。レジュメ専門の先生が来て、無料でみてくれるという。すぐに予約を入れた。当日、ずっと疑問に思っていた事を聞いた。

「どこまで専門的に、オタッキーにしていいか分からないのです」

先生は私の仕事内容をよく知らないから、そういった人の立場から見てくれると言った。硬かった言い回しを、ぐっと柔らかく分かりやすくしてくれた。そしてさらに驚いたことがある。

「あなたのプライバシーに関わるから、住所は全部書かなくていいのよ。住んでいる市の名前だけで十分。雇いたいと思ったら、すぐに携帯電話にかけてくるから、それだけはしっかり入れてね」

個人情報をきっちり守る。これがアメリカのやり方なのだろう。

伊藤葉子(いとうようこ)/プロフィール
ロサンゼルス在住ライター兼翻訳者。米国登録脳神経外科術中モニタリング技師、米国登録臨床検査技師(脳波と誘発電位)。訳書に『免疫バイブル』(WAVE出版)がある。