いよいよ第2学期から病院研修が始まった。2年間で合計5回、1000時間にも及ぶ実習ができるようになっていた。夏の2ヶ月間とプログラム終了直前の3週間は、学校に行かず病院研修だけをする。それ以外は、学校で勉強しながら週に2回病院へ行く。
私たちが送られる施設のリストをもらい、驚いた。なんと、南カリフォルニアの一流病院がほとんどではないか。たとえば、カリフォルニア大学ロサンゼルス校メディカルセンター(UCLA Medical Center)、南カリフォルニア大学メディカルセンター(University of Southern California Medical Center)があり、さらにセレブ御用達であるシーダー・サイナイ(Cedars-Sinai Medical Center)もあった。ビバリーヒルズにあるこの病院で、歌姫のビヨンセが出産し、銀幕のスターであるエリザベス・テイラーが息を引き取った。なんでもVIP専用のフロアーがあるそうだ。かなり興奮したが、冷静になって考えてみた。
2016年度アカデミー賞ノミネート映画、「ラ・ラ・ランド」の冒頭シーンを思い浮かべて欲しい。ロサンゼルスの交通渋滞で、車が前へ進まない状態を皮肉っているが、通勤時間は本当にあんな感じになる。私はロサンゼルス郊外のオレンジ郡という所に住んでおり、病院によっては往復で4時間費やす覚悟がいる。行ってはみたいけど、かなりしんどくなるかもしれない。
「私は2人の小さい子どもを育てながら勉強してます。しかも長男には障害があるので、近くの病院だけにして下さい」
遠くの施設へ送られないように、ごね続けたクラスメートがいた。すると独身の人は、そんなの不公平だと影で言った。確かに皆それぞれ事情がある。
私の最初の研修先は、自宅から80キロメートルほど離れた所にある、ローマ・リンダ大学病院(Loma Linda University Medical Center)になった。同じスタディーグループのテリーと2人で行くことになり、交代で運転した。週に2回、朝は4時に起きて10時間のシフトをこなした。すばらしい大病院で、教科書に出ているケースを毎回のように目にして勉強になった。セブンスデー・アドベンチスト教会系の病院のため、食堂で出される食べ物はベジタリアンだけ。しかも宗教でカフェインを禁止しているため、院内でコーヒーやコーラが買えないのには困った。目覚めのカフェインが必要な私は、家で多めにコーヒーを淹れてポットを持参した。
2年目には、南カリフォルニア大学病院へも行った。ロサンゼルスのど真ん中にあり、映画スターがお忍びで来るような病院だ。ただし毎回ロサンゼルスの渋滞に巻き込まれ、疲れた。大雨の日には、自宅に着くまで3時間半もかかった。就職するとしたら、やはり地元でないと無理だと思った。
プログラムが終了に向かい、学校に通いながらパートタイムで働くクラスメートが出てきた。卒業と同時に、フルタイムになるそうだ。私はどうなるんだろう?
《伊藤葉子(いとうようこ)/プロフィール》
ロサンゼルス在住ライター兼翻訳者。米国登録脳神経外科術中モニタリング技師、米国登録臨床検査技師(脳波と誘発電位)。訳書に『免疫バイブル』(WAVE出版)がある。