第10回 ピアスのはずし方

豊胸手術、腹部の脂肪を取る手術をしている患者さんは、裸体を見て分かるようになった。予想以上に多くの人が、受けている。麻酔で眠らされて仰向け状態なのに、張りのある乳房が横に流れず、これでもかとばかりに上を向いている。ハリウッドのような娯楽産業が身近で、見た目にこだわる南カリフォルニアの文化なのだろうか。さらに、外からは見えない細部にまでこだわる人もいる。

ある日、朝一番の手術でのこと。五十三歳の白人女性患者だった。私が手術前の準備室に行くと、看護師が質問していた。最後の生理は一年以上前、と患者は言った。看護師が尋ねたわけではないのに、付け加えた。

「もう何年もセックスしてないのよね、うふっ」

手術前とは思えないほど化粧をばっちりして、妖艶な雰囲気をただよわせている。彼女は私に言った。

「顔にテープをはらなくちゃいけないときは、紙で出来た物にしてちょうだいね。とっても敏感なお肌なのよ」

「耳たぶにテープをはるのですが、それも紙のほうがいいですか?」

私が質問すると、彼女は即座に答えた。

「それも紙にして欲しいわ」

彼女が手術室に入り、間もなく麻酔で眠る。看護師のキムが、尿道管を入れるために両足のひざを曲げ、足の裏を合わせた。こうして両足でひし形を作って管を入れるのだが、この状態だと性器がむき出しになる。

「あらっ、いやだ!」

ベトナム人のキムが凍りついているではないか。通常、看護師が尿道管を入れ終えると、私は足にモニター用の電極針を刺すため、後ろで待機していた。キムは気まずそうな顔をしながら、患者の性器を指差した。

彼女の性器にはピアスがしてあった。1990年代、両端に金色の玉がついたブレスレットが流行した。着用するとゴルフが上達すると宣伝されていた。そのブレスレットを小さくしたようなピアスだった。なぜか存在感があり、私たちのことを笑っているような気がした。

「あたし、はずしたことないのよねー」

キムは電話をかけて、助けを求めた。フィリピン男性の看護師が来て、あっさりはずしてくれた。手術後、患者さんに返するために、小さなケースにピアスを入れた。チャリンと、音が手術室に響いた。

「絶対あそこにピアスはしないわー。だって炎症起こしたらいやじゃない?」

キムはずっとつぶやいていた。

「キム、私だってごめんだわ」

「あたし達みたいなアジア人は、保守的なのかしら?」

看護師歴十二年のキムが、初めて見た性器ピアスだったそうだ。

身体とマッチしない大きな胸、脂肪を取り除いたときの傷跡、性器ピアス。朝の四時に起床して仕事を始めても、眠気は飛んでしまう。

伊藤葉子(いとう・ようこ)/プロフィール
ロサンゼルス在住ライター兼翻訳者。米国登録脳神経外科術中モニタリング技師、米国登録臨床検査技師(脳波と誘発電位)。訳書に『免疫バイブル』(WAVE出版)がある。