第4回「2012年」

2012年、ニューデリーで、深夜に個人タクシーを利用せざるを得なかった男女のカップルが、車内で凄惨な暴行を受けるという事件が起きた。重傷を負った女性は、のちに亡くなり、男性も大けがをおった。詳細は割愛するが、あまりにショッキングな事件であり、これを機に、国内外における、インドの治安に対する認識が大きく変わったことは間違いない。

ラジャスタン、民族衣装をまとう女性。女性が沢山重ね着するのは、身を守るためのようにも思える

2007年より地元の新聞を購読していたが、その当時から女性や子供が被害者となる事件が目についた。しかし、事件以降、意識して記事を読むと、女性に対する似たような暴行事件や女性や子供を狙った犯罪は、日常的に起きていたことに気がづいた。事件後、国内のあちこちで、女性や若者たちを中心に集会やデモが行われ、「インドを女性が一人で歩ける国に!」といったスローガンが掲げられ、国民の関心は一気に高まった。国外でも、事件のドキュメンタリー映画が製作されるなど、国として、国民として、問題意識を突きつけられる機会はあったが、その後も女性が犠牲となる犯罪は後を絶たない。

当時、子供が同じ学校に通うインド人女性と親しくしていて、彼女からインドにおいて女性として生まれるとはどういうことなのかを聞かせてもらった。彼女は、「私は誰も信用していない。警備員も、バスの運転手も、そして夫も。双子の子供たち(当時8歳の男女)には、今どんな事件が起きているのかを、それは自分たちにも起こりうるということをきちんと話してあるの。ここ(インド)では、男の子供だって、安全ではないわ」と言っていた。私の住んでいた団地は、棟数が多く敷地も広かったため、メインゲート以外にも警備員が配置され、一見、安全なように思えた。しかし、同じ団地に住むその女性は、敷地内に子供がでかける時は必ず同伴し、夫と子供だけ残して外出はしないという徹底ぶりだった。そんな彼女の様子を見て、また、日々起きる事件を知れば知るほど、何事もなく過ごせてきたのは運がよかっただけと思うようになった。

2012年は、インド生活も5年目でインドの治安に対してかなり楽観的になっていた私自身の姿勢を根本から改めた節目の年になったのだ。

 

さいとうかずみ/プロフィール
2007年より8年インドの首都ニューデリー近郊に居住。ヨガやナチュオパシーを習いながら、日本語を教えるなど忙しく過ごす。インドでの妊娠、出産を経て、育児に奮闘していた8年目に突然インド生活が終焉。その後、2017年より約2年インドネシアに在住。2019年7月再びインドに戻ることになった。