第5回 我が日本!居場所と見え方について~知る権利の重要性を考える~

わたしは在米だが、日本のマスメディアの偏向報道ぶりに危機感を感じている。

「日本に住んでいないのに何がわかるの?!」と言われるかもしれないが、それはちがうと思う。日本を外から見ているからこそわかることもある。日本に暮らす多くの庶民にとって、日々の情報はテレビと購読している新聞が主流だろう。その主要情報源が、常識的な知る権利を満たしてくれていないとすればどうだろう。垂流される情報に疑問を抱くことなく、ただ受け止めていてだいじょうぶなのだろうか? 海外在住者の方が、ネットを駆使してより多くのメディアから主体的に情報を集めるので、結果として総括的に情報が得られるとも言えるのではないか。

そう感じるようになったのも、日本帰省中に友人や親類と話をすると、わたしが当たり前に知っている日本のことを、日本人の方が知らないことに愕然とすることが多くなったからだ。「日本にいないのに、どうしてそんなこと知っているの?」と不思議がられることもあるが、日本の主要メディアが伝えないが、海外メディアでは報じているなんてことはいくらでもあるのだ。

今さらながら、何年か前に中国人留学生と雑談をしたときのことを思いだす。

彼女は米国に来たばかりだったが英語はとても上手で、中国がいかにすばらしい国かという“お国自慢”をにこやかに続けた。自分の国に誇りが持てること、自慢できることはステキなことだ。アメリカでたくさん勉強して帰るのだと夢を語る彼女に好感を持ったが、あまりに「中国スゴイ」が終わりそうになかったのでちょっぴり意地悪に、「中国のウイグルでの核実験なんかについてはどう思っているの?」と聞いてみた。彼女はキョトンとし、そんなこと中国がするわけないし聞いたこともないと言った。彼女がたまたま無知だっただけかもしれない。中国が学校教育の中で教えているのか、意図的に隠しているのかは、わたしの知るところではないが、米国留学できるレベルの教育を受けている学生のリアクションだった。

中国といえば、一般庶民はFBやTwitter、YouTubeなどは見られない。代わりに中国版の似たものが存在し、国家として国民に伝えたくない検索ワードは徹底的に排除されていると聞く。しっかり情報コントロールがされている国から来たばかりの留学生に見えていた祖国は、世界が常識として知っている見え方とはちがっていた。後日、自ら調べることで数々の自分の知らなかった祖国の歴史や側面を知ることとなり、彼女は驚いたと言っていた。

日本は今のところそこまでひどいとは思わないが、それぞれのメディアが伝えるべきことを伝えない、情報に偏りがあるなどを続けていけば、世界との間にどんどん隔たりができてしまう。実際、福島の原発事故処理問題の深刻さも、日本のメディア以上に米国の報道番組の方が詳細に伝えてくれているように感じられる。福島の人々を傷つけたくない、という優しさから日本の報道はマイルドになってしまうのかもしれないし、国家としての深刻な問題に正面から向き合いたくないのかもしれない。でも「くさいものに蓋」をしていてもどこにもいかないではないか。

今回、台風15号により千葉県を中心に甚大な被害をもたらしている災害の最中にまで、各局のワイドショーでは韓国問題を主軸にした番組作りをしていた。何のためなのだろうと疑問がわく。これほどお隣の国のことを詳しく報道するなら、日本の現政権下で起こっている不正問題をなぜ取り上げないのか?隣国以上にたいせつだし、検証も必要だろう。メディアの監視がなくなれば、不正はより蔓延っていく。そしてそのツケはわたしたち国民が負うことになるのだ。

大統領が発信した誤情報を正当化するためにハリケーン予報円を書き換えてしまった疑いをネタに笑いで批判するスティーブン・コルベア

米国もよく情報コントロールの国と言われるが、日米を比較すれば、米国はファクトチェックも容易だし、公共放送は権力に屈していない。コメディアンは国家のトップだろうと、正面から批判して笑いを取るし、人気のトークショーでも権力に忖度しているようには見えない。

つい最近、「日本報道検証機構」(GoHoo)が8月29日をもって解散したという記事を目にした。新聞やテレビの報道内容の検証のため、弁護士らが2012年に設立した日本唯一のファクトチェック機構だ。寄付による運営資金が賄えなくなったとの説明だが、あまりに時代に逆行する残念な結果だと思う。とはいえ、そんな機関があったことも知らないというのが今の日本なのかもしれない。

手遅れになる前に、国民が「知る権利の重要性」に気づき、それをメディアに求めていくように何らかのアクションを起こさなければならない時期に来ていると感じるこのごろである。海外に暮らしていても、わたしは日本人であり日本の有権者だ。日本のことはいつも気になっている。

椰子ノ木やほい/プロフィール
アメリカで人気の“The Late Show”というトークショー番組がある。司会はスティーブン・コルベアというコメディアンだ。彼はエミー賞を何度か受賞、タイム誌の「最も影響力のある人物100人」にも選ばれるほどの実力者だ。毎晩、独特の切り口で大統領を笑う。その日のツイートや行動に対しほめて落としたり、正面から嘘だと突っ込んだり、嫌味のないその手法は「さすが、一流のコメディアン」だと感心する。日本にもそんなお笑い芸人や、番組が増えるといいのにと思いながら気分転換している。