第18回 病院研修(その4)

パートタイム技師に応募したが、採用にはならなかった。すぐに技師を雇わないことになった、と言われた。夏が終わり新学期が始まると、こども病院で週に2回の研修を受けることになった。

この病院から車で数十分以内に、ディズニーランド、ロサンゼルス・エンゼルスオブアナハイム球場、アナハイムダックスのアイスホッケー場がある。そんな地の利のためだろうか、ミッキーマウスやグーフィーが入院中の子どものためにやって来る。しかもプロ野球選手、プロアイスホッケー選手たちも病気の子どもを励ますために、来院するという。選手たちは病室を訪れ、患者とおしゃべりして希望があれば写真撮影をするそうだ。著名人だけではない。セラピードッグと呼ばれる、訓練を受けた犬たちが病室に来て子どもを元気づけている。ピエロに扮したボランティアたちは、待合室にいる患者を笑わせて気を紛らわせるために、がんばっている。

患者とその家族のための、おもちゃ、食べ物、お菓子といった寄付も多いらしい。学生ボランティアは多数おり、飲み物や焼き立てのクッキーを配っている。母親のかわりに新生児をだっこする、オバサンのボランティアなんていうのもいる。非営利団体である病院には、みんなの愛があふれていた。

小児科専門なので患者は新生児から二十である。頭と顔に30個近くの電極をつけようとすると、泣いていやがる患者は多い。鎮静剤は使わないので、技師が数人ががりでセットアップをしたりする。やっている間は必死だが、検査が終わると疲れがどっと出てくる。

子ども病院の神経内科検査部門には、技師が10人ほどいた。みんな私と同じ学校の卒業生で、登録試験に合格している。技師としてのプライド、豊富な知識があった。毎回違った技師についていたので、勉強になった。

「患者が睡眠不足気味か、覚醒状態かどうやってわかるか言ってみて」

「この脳波の名前は何だったかしら?」

こんな感じで、毎回みんな私をトレーニングしてくれた。

この病院で働きたい、と言うクラスメートは多かった。確かに、病気の子どもを助けるチームの一員となることは、やり甲斐があるだろう。ただ私には、しんどいと感じた。重度の障害を持ち、、悪化するスピードを遅らせる処置をするしかない患者もいる。慣れた手つきで、寝たきりの娘にたん吸引をするお母さんの疲れた横顔を見ていると、同じ親として頭が下がる。私の息子たちと同年代の患者やその親と接していると、つらくなる。

ただ検査をして、脳波に何か問題があることを見つけられると、少しでも人の役に立てたのではないかと思う。これが患者を少しでも良い方向へ導くための、一つのデータになったのではないか、と。

伊藤葉子(いとうようこ)/プロフィール
ロサンゼルス在住ライター兼翻訳者。米国登録脳神経外科術中モニタリング技師、米国登録臨床検査技師(脳波と誘発電位)。訳書に『免疫バイブル』(WAVE出版)がある。