昨年12月、半年ぶりに息子とフランスに行き、1ヶ月ほど滞在した。
私は展示会の仕事を3つこなし、その後、夫の家族とともにブルターニュでクリスマスを過ごした。
なんて言うと、「楽しそうね」、「羨ましいわ、フランスでクリスマスなんて」などと言われるが、実は今回の滞在では散々な思いをした。
というのも、フランス名物の交通ストの時期に滞在期間がピッタリ重なってしまったのだ。パリ到着の3日後に始まったストは私が日本に帰国した後も続くというかつてない長期大規模ストだった。
パリ郊外の家からパリ中心の展示会場へ行くには電車を使うのだが、スト期間中はその本数が大幅に減り、朝と夕方の限られた時間帯しか動かなかった。
ただ、少しでも動くだけマシで、完全に麻痺した郊外電車や地下鉄もあった。おかげで、会うのを楽しみにしていた在仏の友人との約束はいくつかキャンセルになったし、展示会の来場者数も予想よりずっと少なかったのだ。
私が利用する郊外電車は1日の延べ利用者数が100万人を超えるそうだが、ストによる本数減のため、車内はすし詰め状態であった。当時はまだ新型コロナウィルス感染症はフランスでは発生していなかったが、他の乗客との濃厚接触は避けられず、そのせいか、フランスで毎冬流行する感染性胃腸炎(ガストロ)にかかった。ちなみに私はフランス在住22年間、この病気には一度もならなかったのにである。日本に住んでフランスの病気に対する抵抗力が低下したのか、今回は3日間ほど、嘔吐と下痢で大変な思いをしたのだ。
幸いガストロにかかったのはちょうど最初の展示会と2つ目の展示会の間だった。しかし、弱った身体で再び満員電車に乗ることになり、風邪も流行りだし、車内で咳き込んでいる人も少なくなかった。案の定、今度は風邪を引いてしまう。それで12月3週目に行われた最後の展示会の間はずっと微熱と鼻づまりと咳に苦しみ、クリスマス休暇中もそれは続き、結局、フランスの風邪を日本に持ち帰る羽目になった。
身体が弱っていたせいもあるかもしれないが、羽田空港に着いた時には今まで経験したことがないような安堵感を感じ、自分の国に無事戻れた、と心底ホッとしたのである。
2018年の6月に帰国して1年半が過ぎた。日本に住んで働いて、子どもを日本の高校に通わせ、地域の活動に参加し、新しい知り合いも増え、日本の生活習慣も身につけて、少しずつ日本の暮らしに根を張って来た。
以前はついフランスに“帰る”とか“戻る”と言ってしまいがちだったが、最近では、ちゃんと(?)フランスに“行く”と自然に言えるようになった。
ようやく自分の住処、ベースは日本で、この先もこの国にずっと住むのだという実感そして覚悟のようなものもできて来た気がする。
《江草由香(えぐさゆか)/プロフィール》
編集者・ライター・通訳・翻訳者・イベントコーディネーター。
立教大学仏文科卒。映画理論を学ぶために96年に渡仏し、パリ第一大学映画学科に登録。フランスでPRESSE FEMININE JAPONAISEを設立し、99年にパリ発フリーペーパー『Bisouビズ』を創刊。現在パリ・フランスとアート&モノづくりをテーマにしたサイト『BisouFranceビズ・フランス』の編集長。個人ブログは『湘南二宮時々パリ』。