3 ドイツ語と母国語/ドイツ

ドイツ連邦統計局によると、人口の8%が外国人。しかし帰化したり多重国籍の人もおり、実質2割がいわゆる外国人といわれる。そのためバイリンガル教育というと、母国語とドイツ語教育を指すことが多い。

以前は多国語で教育すると、子どもの脳に混乱をきたすとして、ドイツ語だけの教育が推進された。トルコ移民が子どもにトルコ語で話しかけるのは好まれず、国際結婚でもドイツ語のみで子に話しかけるように指導された。

しかし親の話す言葉すなわち母国語と、ドイツ語のどちらもできない子が増えたことから、最近は母国語の重要性が見直されている。特に両親とも外国人の場合、子どもに不完全なドイツ語で話しかけると、子どもがそのまま覚えてしまい、致命傷になる。間違ったアクセントと文法でそのまま幼稚園、学校とあがり、最終的には母国語は聞きかじり、ドイツ語は中途半端となり、日常生活に差しさわりが出てくる。

ひとつの言語をきっちりマスターしてこそ、別の言語にも取り組めるというもの。少なくとも小さいうちは、親の母国語が子どもの母国語である。だから家庭では親が母国で話しかけ、絵本を読みきかせ、子どもは幼稚園でドイツ語を学ぶのが奨励されている。

移民の子やハーフ子がいっぱい。ドイツの都市では、普通の保育園でも十分インターナショナル

北ドイツのハノーファーでは小学校に上がる前1年半ほど前に、ドイツ語の語学力が審査され、必要なら週何回か無料のドイツ語特訓コースに通うことになる。コースといっても、先生と歌ったり本を読んだり遊んだり。楽しみながら子どもに正しいドイツ語に触れる機会を提供している。

ちなみにうちには3歳の子がいるが、私は日本語、夫はギリシア語で話しかけている。ドイツ語は保育園のみ。両親ともドイツ人の子は15人中5人だけの多国籍のクラスだが、息子のドイツ語は他の子と大差ない。3カ国語を使い分け、保育園の先生から今後も母国語で話しかけるよう言われている。

ところで、英語教育については、少なくとも小さい子に対してはそれほど熱心ではない。英語とドイツ語は似ている単語が少なからずあるため混乱を招きやすいからか、まず母国語という意識が強いからか。受験がなく、授業は午前中で終るドイツでは、小さいころから塾に通わせたり、早期教育という意識は薄いようだ。

田口理穂(たぐちりほ)/プロフィール
日本で新聞記者を経て、1996年よりドイツ在住。州立ハノーファー大学で社会学修士号取得。ドイツの生活事情やエコ、労働問題、教育など「NPOごみ・環境ビジョン21」「婦人公論」「ウェブロンザWEBRONZA」「日経BP社・エコマム」など幅広く執筆。エコツアーや教育視察のコーディネート及び通訳もしている。共著に「ニッポンの評判」(新潮新書)。