当たり前ですが、黒人さんは黒いです。私はもともと色黒で、日本でも、東南アジアやインドの出身かときかれたことがあるほどでした。それなのに今はドイツに住んでいますから、周りは白人ばかり。私の肌は、周囲よりずっと濃くうつります。
ところがギニアに行くと、なんと私は色白に分類されるのです! 周囲の人が黒いから、横に並ぶと私の肌はとても白く見える。それにやたらと暑いのので(北半球で冬なのに30度!)、汗と湿気で皮膚は膨張し、しわがなくなり、ぴちぴちと若々しく見えます。なんと白くて美しい肌なのだろうと、我ながら惚れ惚れしたほどです。まったく初めての体験でした。
ギニアにきて最初の数日は、黒い人ばかりで顔の区別があまりつかず、一緒に住んでいるYの弟と運転手の区別もつきませんでした。弟と知らずに、外で会ったときに握手して、自己紹介を始めてしまったときにはさすがに自己嫌悪。「初めてアジアに行ったとき、アジア人の顔がみな同じに見えたよ」とドイツ人のMが慰めてくれました。時間が経ち、徐々に区別がつくようになると、弟と運転手は、体型も顔も髪型もぜんぜん違うことがわかってきました。道行く人もちろん各人特徴があり、「黒人」という一括りだったのが、個人として認識できるようになりました。
一眼レフのカメラを持っていったのですが、Mが「黒人の場合はフラッシュをたかないと、顔がぜんぜん見えないよ」といいました。けれど、ばちばちフラッシュたくのもどうかと思い、これまでと同じように撮っていました。しかし撮った写真を見ると、暗くて表情がよくわからない。黒人さんは黒い、本当に真っ黒なのだと改めて思いました。暗黒大陸とは、よく言ったもの。暗黒大陸とは本来、文明から取り残された未開の地という意味ですが、人々が真っ黒だから名付けたのではないかと思えてきます。けれど、最近は白い肌を求める傾向があり、体によくない成分が含まれた美白クリームなどが売られているとか。ドイツでは日焼けしていると、金持ちでバカンスに南の島に出かけられるとみなされるので、小麦色の肌が人気です。
恥ずかしながら、これまでいかに黒人と縁がなかったかわかるというもの。今回の訪問で黒人に一気に親近感を覚えるようになりました。自分と関係ない人たちではなく、みな一生懸命生きていて同じなんだよなと感じるようになり、視界が広がった気がします(当たり前ですが)。だからドイツで黒人を見かけると、あんな暑くてのびのびした国にいたのに、こんな寒いところに来ちゃって、と同情心がわいてきます。
≪田口理穂(たぐちりほ)/プロフィール≫
1996年よりドイツ在住。ジャーナリスト、ドイツ州裁判所認定通訳。著書に『なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか』(学芸出版社)など。お世話になっていたギニア人女性Yたちと、ホテルのプールに泳ぎに行きました。ドイツ人Mと私だけが外国人だったのでじろじろ見られましたが、それはまあOK。けれど、親戚の子と遊ぼうと子ども用プールに入ったら、知らない子どもたちが寄ってきて、私に触ろうとします。子どもたちに囲まれ、早々に退散しました。ギニアではこのように、いろいろ初めての体験がありました。