秋の長崎は素晴らしい。長崎が好きならば、どの季節にさるいてみても素晴らしいのだが、暑くも寒くもない、日差しにあふれた爽やかな秋さるきは楽しい。そして10月7日、8日、9日は「くんち」である。長崎っ子である「じげもん」はもちろん、私のような長崎へやってきた「よそもん」でも、くんちと言えばそわそわする。じげもんの友人のひとりは、10月7日のくんちの朝は、わくわくしてまだ暗いうちに起きてしまう、ずっと子どもの頃からそうだから、あの気持ちは特別だ、と言う。シャギリ(笛太鼓)の音、祭りの喧噪、踊町の演し物と人々の掛け声……夢中になるともう簡単には抜け出せない。じげもんであろうとなかろうと、一年じゅう毎年、くんちのことを考え、くんちが生活の一部になり、やがて生活の中心になり、立派なくんち馬鹿(失礼!)になるのだ。(くんちについては「第10回くんち」を参照)
さて、くんちが終わると、秋はいよいよ深まってくる。芸術の秋を楽しみたい人は、長崎歴史文化博物館(通称「れきぶん」)に行くのも良い。その名の通り、長崎の歴史と文化を知るのにぴったりなところだ。長崎の町がどのように発展したか、鎖国下の海外貿易港としての姿、出島や唐人屋敷、居留地に住んだ外国人の生活などを伝える貴重な資料が豊富で、くんちを含め庶民の風俗や暮らしについても見やすい展示があり、子どもから大人まで楽しめるよう工夫されている。館内の書店には長崎関連の書籍、写真集が豊富に揃い、企画展示室では長崎ゆかりの美術展がよく開かれる。2017年10月現在、シーボルトお抱え絵師だった「川原慶賀(かわはらけいが)の植物図譜」展を開催中。
また、れきぶんが建っているのは長崎奉行所の跡地だ。江戸時代を通じ、長崎は幕府の直轄地として長崎奉行の配下にあり、奉行の勤め先は、出島のすぐ前にあった西役所と、れきぶんの位置にあった立山役所だった。館内には立山役所のお白洲と畳の広間が復元され、長崎奉行の役目について詳しい説明がある。長崎奉行はキリシタン弾圧にも関わったが、踏絵やマリア観音(観音像に似せた聖母マリア。かくれキリシタンが拝んだ)など、キリシタン関連の展示もあって、当時がしのばれる。
そして食欲の秋。カステラやちゃんぽんに代表される長崎独特の食文化は「第11回和華蘭」で紹介したが、その時書きそびれたものをいくつか。長崎では「ミルクセーキ」は飲み物ではなく、食べ物だ。アイスクリームとかき氷の間の食感、カスタードプリンを凍らせたような味の冷たいデザート。長崎の老舗喫茶店にあり、長崎ちゃんぽんのチェーン店「リンガーハット」でも時々期間限定で出している。食べるミルクセーキは、長崎では当たり前なのだが、長崎以外では知られていないようで、ご当地モノの大好きな日本でなぜ広まらないのだろう……と思う(私だけだろうか)。
「シースケーキ」は「シースクリーム」とも呼ばれ、カステラの生地にカスタードクリームを挟み、生クリームと黄桃シロップ漬け(缶詰の桃?)とパイナップルが乗った甘いケーキ。昭和の長崎で生まれた創作菓子である。シースとは”sheath”(英語で「刀の鞘」)のことだが、本当は”pod”(豆のさや)のつもりで誤訳だったらしい。名づけの苦労はともかく、カステラよりしっとりして、味を覚えるとたまに食べたくなる。長崎のケーキ屋さんには普通にあるが、他地域ではまだ見たことがなく、カステラを切って自力で似たものを作るしかない。
甘いもの以外では、海老のすり身を食パンで挟んで揚げた「ハトシ」が美味しい。おつまみにも食べ歩きにもぴったりで、明治に中国から長崎に伝わったらしく、漢字で「蝦吐司」(蝦多士とも。海老のトースト、のような意味)。他にも角煮饅頭とか、サツマイモで作る五島列島の素朴な「かんころもち」とか、いろいろ珍味があるが、文字数が尽きてきたのでこの辺で……見ても食べても、秋さるきこそお勧めである。
◇写真提供協力 (一社)長崎県観光連盟
(参考)
長崎くんちナビ2017/長崎歴史文化博物館 /食べるミルクセーキ /シースケーキ/シースクリーム /ハトシ /かんころもち
《えふなおこ(Naoko F)/プロフィール》
子供時代から多様な文化と人々に触れ、複数の言語教育(日本語、英語、スペイン語、フランス語、韓国語)を受ける。テレビ局、出版社、法律事務所勤務を経てフリーランサー(翻訳、ライター)。