244号/河野友見

去る7月の七夕前夜、未曾有の大雨土砂災害が西日本を中心に各地を襲った。広島市内でも、まるで空からナイアガラの滝が落ちてきたのかと思うほどの恐ろしい勢いの雨が延々と降り続き、各地の山あいの町で砂防ダムが決壊。家や車がいくつも土砂に飲み込まれて、多くの死者・行方不明者を出す大惨事となった。

4年前の広島市の土砂災害後よりメディアでも取り上げられているが、広島市近隣の山々は「真砂土(まさど)」と呼ばれる、花崗岩が風化した砂で出来た脆い地質だ。地中に水を含むと崩れやすくなるといい、これが多くの土砂災害を生む原因だそうだ。さらに、平野部の少ない広島市は、山裾ギリギリに—–いや山を切り崩しながら—–宅地開発してきた点も、被害を拡大させた原因のひとつと言われている。元々脆い地質の山を侵食して住宅地が出来上がったのだから、土砂崩れを起こせば町もろとも崩れてしまうだろう。

実はこういった災害は、現代に始まったことではなく、大昔から広島の中国山地周辺では起こったと言われている。現に、山を大蛇が駆け下りてきて村を飲み込んでしまった、という伝承が残る地域もあるし、町民は皆忘れていたが「大水害の碑」と刻まれた明治時代の石碑が残っていた、という話も今回の災害の後に出た。昔話だと思って気にも留めなかったけれど、まさか、伝承のような災害に再び襲われるとは……と、年配の男性がうなだれている取材映像を見た。私は東日本大震災の時にも、似たような映像を見たことを思い出した。「ここから下に家を建ててはならぬ」という意味の石碑は、現代では誰の目にも留められていなかった。そこより下は、まさに3.11の大津波が襲った地区だった。

今年は観測記録史上最高と言われる酷暑の夏になり、台風の数も例年より多い。思えば、近年は地震、土砂災害、洪水と頻発しており、日本全国どこもかしこも自然災害からは逃れられないと感じる。だからこそ、今一度、日頃の防災意識を正すと同時に、自分の町の歴史にそれぞれが向き合う時期が来ているように思う。昔のことだからと無視をせず、真面目に伝承を聞き、そして町と命を守る為に子孫に伝え残していくべきではないだろうか。

こんなにやるせなく辛い気持ちの夏を、人生で迎えたことはない。この夏、広島港と宮島の花火大会は中止になった。初めての花火大会のない夏。せめて、慰霊と復興の祈りを込めて、家族でひっそりと線香花火に火を灯そうと思う。

(日本・広島在住 河野友見)