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第4回:母からの伝言――平日に生まれよ/靴家さちこ

母親学級で配られたプリントの<無痛分娩>の項目に、「日曜の夜は当直の麻酔医がいないため、無痛分娩の処置はいたしかねます」と書いてあるのを見つけた私は、「これは本当に、本当なんですか?」と食い入った。すると、「どうしても無痛分娩をなさりたいんですか?」と助産婦さん。「夫が、日本では無痛分娩の技術がないのだろうといぶかしがっております」と食い下がると「ご主人が外国の方だと、そうやって甘えてしまうお母さんが多いんですよね」とため息をつかれた。

 

――甘えるぅ?甘えているだとぉおおお!?――確かに、お腹の赤ちゃんの為ならどんな痛みも耐えようと思わない私は未熟かもしれない。が実際に、お金を払って医療行為を受けようというのに、病院のポリシーが優先で、患者が甘えん坊呼ばわりされるのはどういうことだ。見かねて妊婦友達が病院を変えることを勧めてくれたが、今さらそんなこと面倒くさくてやってられない。――そうだ。要は、週末に産まなければいいのだ。その日から、私はお腹の子に語りかけ始めた。「平日に生まれなさい。それから、あんまり痛くしないように」と。

 

病院から紹介された外国人向けの両親学級というのにも、夫とともに参加した。主催者は、日本で2人の子どもを産んだアメリカ人女性で、快活なジョークを交えながら、日本での出産話を盛り上げる。ビデオが上映され、見てみると、農家の大家族の嫁が、生まれてくる赤ちゃんのお兄ちゃん、お姉ちゃんも含む一族郎党が見守る中で、ひいひい叫びながら産んでいる――それだけ日本の出産はナチュラルなのです、と締めくくるビデオを見終わる頃には、私は固まっていた。慌てて隣を見ると、「僕はこんなにたくさんオーディエンスは要らないな」と早速夫が誤解している。一方近くの席のオランダ人夫婦は「日本でも家で産めるの?」と目を輝かせている。オランダでは、自宅出産が一般的なのだそうだ。

 

参加者の間で話題に上ったのは、無痛分娩のことであった。どちら様も、あちこちの産院で自然分娩を勧められているらしい。その理由は、日本では、麻酔医の確保が難しいとのことであった。そして何よりも、胎児や母体への麻酔による悪影響の恐れが無い、自然分娩が王道とされており、「痛い思いをして産んだからこそ可愛いいのだ」と、"痛み"は母になるための通過儀礼という文化的な要素も強い。じゃあ、鼻から痛い思いしてスイカを出せば、スイカが無性に可愛くなるのか?――そんなことは誰も言ってない。

 

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