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第5回:陣痛ですよ!鬼コーチと歩く/靴家さちこ

日本在住のアメリカ人女性が主催する外国人向けの両親学級にて。在住外国人の間で、日本で主流の自然分娩がやり玉にあげられた。自身が日本で出産を経験している主催者は、自らの経験から「必ずしもみんながみんな自然分娩を強要されるわけではなく、実際にはさまざまな対応が可能なはず。前もって病院側に希望する出産スタイルを紙に書くなどして伝えておいた方がいい」と熱く勧めた。

 

そこで、家に帰ってから夫と頭をつきあわせて、お産に関する病院への要求を書き出してみた。

 

1)痛みに弱いので、無痛、和痛、いかなる処置でも構わないので、できるかぎりで対応してほしい。

2)立会いをする夫が外国人なので、英語での対応をお願いしたい。

3)怒られると委縮し、褒められるとがんばれるタイプなので、どんな些細なことでも大げさに褒めてほしい。

 

最初の二つはいいとして、三番目は過保護な親の通信簿の記入欄か。一瞬消そうかと思ったが、万が一、自然分娩となった日には褒め言葉は絶対必須だと思い、書き残した。

 

そして、いよいよ38週目の最後の検診。そこで、私は許容体重ギリギリまで来てしまい、助産婦さんから「これ以上、増やさないで」ときつくお叱りをいただいた。――それでは、今日から断食しろと?と頭で反撃しながらも、この段階に至っても食い悪阻が治まらず、おせんべいが手放せない。それどころか、これから出産してしまうと、赤ちゃん連れでは外食もままならず、じっくり手の込んだ料理もできないに違いない――と思ったので、回転寿司やらイタリアンやらと行っておきたい店には行き納めをし、家でも盛んに料理して――実によく食べた。

 

かくして日曜日の朝に――陣痛らしきものが、穏やかにやってきた。病院に電話を入れると、痛みの間隔に注意していよいよ陣痛らしくなったら来るように――とのことだった。「あのさ、今日、日曜日だよね」「予定日まだだよね」――お腹をさすりながら語りかける。週末だと麻酔医がいないのだ――。初産は時間がかかるものらしく、人によっては日付を越えることもあるという。――月曜の朝イチなら麻酔医が来るかしら――この期に及んでも、まだ無痛分娩があきらめきれない。

 

私は頭から布団をかぶって不貞寝をしてしまった。昼間に起きると、夫に外に連れ出された。臨月の妊婦に適度な運動は必要だと、勝手に専属コーチを名乗り出て方々を歩かせてきた夫は、こんな日でも鬼コーチだった。

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