地球スタイルで子どもを育てている、世界各地に在住のライターが独自の視点で綴ります。

第7回:泳げ!長男クン/靴家さちこ

 日本で長男の出産中、痛みにもがき苦しむ私に、助産婦さんが筋肉弛緩剤を投与してくれた。この和痛の処置により、ほろ酔い気分で眠気が襲ってきた私は「あさにふんれもいいれすか(朝に産んでもいいですか)?」などとふざけたことを言い出す始末。「ダメです。今すぐいきんでください」すげなく助産婦さんに却下され、とりあえず、下半身に力を入れて踏ん張ってみることにした。

 

踏ん張ると、太腿がぶるぶる震え、火が付いたように熱くなった。すると――「いきみ、お上手ですよ」「そうですよ、ほら、すごい」「えらいですよ、その調子!」――要望通り、4人の助産婦さんが大声で口々に私をほめちぎってくれている。おお、快感!それでも、2回、3回目と踏ん張って出なかった時には、もう一生出てこないのかと泣きそうになった。そして4回目――両足の間に、バタバタと鯉のようなものが泳ぎ出てきた。泣いてはいなかったものの、慌てふためいて動揺しているのが感じ取れた。7月7日、七夕の日の午前5時。長男、海渡の誕生だった。

 

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あれから約5年が経ち、一家で移住したフィンランドでの初夏のこと。意味もなく小腹が減るので、もしや、と思ったら、妊娠していた。ほどなくして、長男の時と同様、出血があり、慌ててかかりつけの医師がいるクリニックに電話すると、夏休み中で2週間先まで予約が取れないという。誰でもかまわないと食い下がったが、夏休み中で医師の数が少ないので、どのみち2週間先まで予約が取れないのだという。

 

2週間!血が出ちゃってるのにですか!」と怒りを表明し、手が空いている医師を電話口に回してもらった。状況を説明すると、痛みを伴わない限り、出血の量がこれ以上多くならない限りは、特に問題がないだろうとのことだった。それに万が一、出血の量が増えたとしても――その場合には緊急で病院に来てもらうことになるが――もともと胎芽や胎児の発育が悪く、それゆえに流産するわけなので、今日明日の診察でどうにかできるものではない、という説明だった。

 

幸い出血はすぐに止まり、私は安静にゴロゴロして過ごした。今度の悪阻は、日本食を――特に"ラーメン"を食べると簡単に収まる。せっせとラーメンを食べている間に2週間はあっという間に過ぎ、クリニックの医師による診断で胎児の無事が確認された。これを持って正式に、海渡に「ママのお腹に赤ちゃんがいるよ」と発表した。「おいしゃさんが、ママのおなかにあかちゃんをいれてくれたんだね」と独自の想像力を働かせて目を輝かせる息子よ――その言葉の通りだとすると、お腹の赤ちゃんと君は異父兄弟になってしまう。が、その辺の細かい教育はまた後日にすることにしよう。

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