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第8回:モニターに大写しで確認すべし/靴家さちこ

フィンランドでは、妊婦の検診は病院にではなく、テルヴェウスケスクス(保健センター)のネウヴォラ(相談所)に通う。家から車で5分とかからない保健センターでの私の担当の保健婦さんは、自身もアブダビに住んでいたことがあるという、やや年配の女性だった。「英語で話しましょうか、えええ、それともフィンランド語?」とゆったり話す様子が、話すというより昔話を読んでいるような感じ。「英語でお願いします」と答えながら吹き出しそうなのを堪えていた。

 

その後の検診は、出産までに月に1回、9か月に入って月に2回、臨月は毎週、と合計13回に渡って、尿検査、体重と血圧の測定、腹囲や子宮底の計測や、血液検査、血中ヘモグロビン量の計測が行われた。保健センターの医師による診察は、12週目、28週目と36週目にあり、超音波検査は、保健センターには設備がないため、北へ20キロほどのところにあるヒュビンカーの総合病院に自ら予約を取って出向けとのことだった。 

 

余談だが、フィンランドでは、胎児の性別を教えたがらない医師が多い。さらに親としても、生まれてくるまで知らずに楽しみに取っておきたい、というフィンランド人が多い。知り合いのフィンランド人に、逆に何故知りたいのかと聞かれ、私が「名前を決めたり、育児用品を買い揃えたりするのに、性別が分からないと不都合」だと答えると、「へえー」と驚き半分、納得半分の顔をされた。

 

そんなわけで、ヒュビンカー総合病院での超音波検査では、先生をあてにすることなく自ら目を凝らして見ていたが、凝らすまでもなく、モニターに立派なモノが大写しに映っていた。担当の中年の医師は、英語は勘弁してという人だったので、夫にそのモノが何であるかを聞いてもらうと、もっと接写して「ああ、タマですね」と、いともあっさり認められた。

 

生まれてくる子が男の子であることがわかったところで、再び健康センターでの検診。例によって普通に話しているのに何もかもが「むかぁ~し、むかし」みたいな語調の保健婦に「男の子?それとも女の子?」と聞かれ「男の子です」と教えてあげると、腹囲を測った手を止め、「まぁ、それは楽しみね」だの、「息子さんは喜んだ?」だのと話を続ける。そして、あらゆる測定が終わったところで、椅子に座ると「あれ?」と首をかしげ、私の目をのぞきこむ。「あのぅ、私ぁ、何センチって言いましたかね?」――志村けんのけんバァさんか。数値の再確認をされたのは、これが初めてではなかった。

 

翌月の診察の日。駐車場からセンターの建物まで歩く途中、夫が言った。「きっと、今日も性別をきいてくると思うよ」私は、まさかぁ、と笑う。「賭けてもいい。5ユーロだ」と夫は引き下がらない。予言は的中し、保健婦は再び私の腹囲を測りながら胎児の性別を聞いた。夫は指をこすって"金払え"のジェスチャーをした。その後、「あとは産むばかり」という話になり「もう一人産んでるんだから、同じことよ」と微笑む保健婦に、夫が「ちょっと待った」をかけた。

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