地球スタイルで子どもを育てている、世界各地に在住のライターが独自の視点で綴ります。

森の子供、バイキングの子供/ニールセン北村朋子(デンマーク)

 息子は、3歳から6歳前まで、デンマーク発祥の森の幼稚園に通った。そこにはおもちゃも園舎もなく、晴れの日も雨の日も風の日も雪の日も、毎日朝8時半から4時半まで森で過ごした。四季を通じて日々変化する森の木々や草花、きのこ、虫たちや小動物、そして落ちている木の枝や石ころ、水たまりが遊び相手。それまで息子は、冬場は風邪をひくことが多かったが、森の幼稚園に行き始めて、目に見えて強く、たくましくなり、病欠もほとんどなかった。

 

 そんな彼も、昨年8月から0年生として学校に通い始めた。放課後は夕方まで、学童クラブで過ごしているせいか、息子は突然「室内遊び」に目覚めた。これまでほとんど興味を示さなかったレゴを手始めに、Yu-Gi-Oh!などのカードゲームに熱中、ついにはプレステ、Wiiの虜となった。毎日の食卓での話題と言えばレゴ・スターウォーズのゲームで今日はどのステージまで行けた、というようなことばかりで、このまま「バーチャルワールド」の住人になってしまうのか、と少し不安になった。

 

 先日、息子と愛犬ポルカを連れて自宅近くの小川沿いを散歩していたときのこと。突然、ポルカが興奮した様子で小川に飛び込んだ。そこにはカモがいて必死に逃れようとしたのも束の間、元々猟犬であるポルカは、あっという間にカモを口にくわえて土手に戻ってきた。ほとんど瀕死の状態だった。シカや野うさぎ、キジを夫とともに家に持って帰って食べた経験のある私だが、これにはさすがにショックを受け、カモを前に立ちすくんでいた。すると、すかさず息子が「まだ完全に死んでいないみたいだから、石で頭を叩いて楽にしてあげたほうがいいよね?」と言った。もう助からないのだから、早く死なせてあげた方がよい、ということを、息子は知っていたし、冷静だった。

 

 ちょうど夫が様子を見に来た。カモを家に持って帰って食べようということになった。私はふと、息子に「びっくりしなかったの?」と聞いた。彼は「少しびっくりしたけど、家で大事に食べてあげれば、きっとカモさんもそれほど悲しまないよ」と言った。そして、「ママ、忘れたの?僕にはバイキングの血が半分流れているんだよ」とウインクして犬と一緒にわが家へ走って行った。

 

 東京や横浜といった都会暮らしから、デンマークの田舎町へ移り住んで、もうすぐ7年が経とうとしている。より自然に寄り添った暮らしに慣れてきたつもりでも、まだまだハッとさせられるような出来事に多く遭遇する。

 

 ゲームに夢中になってばかりいると思っていた6歳の息子のとっさの行動に、自然との関わり方がしっかり身に付いてきていると感じられ、少し頼もしく思った。

≪ニールセン北村朋子/プロフィール≫

デンマーク・ロラン島在住のライター、ジャーナリスト、コーディネーター。再生可能エネルギーの利用等の環境や食など、地球と人にうれしいライフスタイル追求がライフワーク。小学0年生(6歳)の男児の母。森の幼稚園の運営委員の経験を活かし、子供が家族や社会、自然と関わりながら、子供らしく生きられる環境について考える日々。ロラン市地域活性化委員、デンマーク・インターナショナル・プレスセンター・メディア代表メンバー。


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