第2回:ニッポンの病院、いかがですか?/靴家さちこ
あれは今は昔、日本滞在時のこと――妊娠5ヶ月目して、健診の際にはフィンランド人の夫も病院についてくるようになった。
まず、日本の病院といえば、待ち時間が長い。そのことを重々承知している病院では、受付を済ませる際に、呼び出し用の小型の電子機器のようなものを持たせてくれた――にも関わらず、人口520万人の国出身の夫ときたら、順番待ちの素人だ。私が、本を一冊持って行くことを勧めたのにもかかわらず手ぶらで来てしまった彼は、妊婦さんの付き添いで来ているお母様方を目にしては「あの歳で出産はきついんじゃないの」だの「まさかあの人も妊婦じゃないよね」と、耳打ちしては、文庫本に目を落とす私の邪魔をする。「静かにして」と怒りつけて黙らせたものの、後日、フィンランドの健康センターや産院に通うようになってから、夫が目にしていたものとの違いをはっきり認識した――妊婦の付き添いは妊婦の夫であって、母親連れなど珍しいのだ――フィンランドでは。
それはさておき、出産時に夫が立ち会うことを前提に、英語環境が強そうな"広尾"という立地条件だけにこだわって決めたA病院であったが、実際に、医師が率先して夫に英語で話しかけてくれるということはほとんど無かった。これまでの経験で、同じく広尾の別の病院でもお医者さんともあろうお方が、風邪の所見一つを英語で言えないのを目の当たりにしたことがあったので、さほど驚きはしなかったし、日本に住んでいながら日本語ができない夫のほうが問題視されるのはいたしかたないとも思った。が、せっかく出産に立ち会ってくれようと張り切っている夫が言葉の壁に阻止されているのは切なく、言葉ごときの問題で日本の医療関係者のレベルが夫に怪しまれるのも、日本人としてはもどかしかった。
さらに超音波検査では、お腹の中の胎児のエコー写真を撮るわけだが、この写真にものすごい気合いを入れてらっしゃる先生が多いのには驚く。「あ、今ちょうどこっちを向きました」「あああ、お尻を向けて寝てしまっていますね・・・・・・」と、お腹に当てた機械にぐっと力を入れて、角度を変えてシャッターチャンスを狙う様子などは、本職はカメラマンかと思うような勢いだ。フィンランドでは、その辺も非常にあっさりしており、画像をモニターで一緒に見るだけで、写真がもらえなかったこともあった。というわけで、日本での長男の超音波写真は薄いアルバム一冊分ぐらいたまったが、フィンランド産の次男については5本の指が余るほどしかない。――許せ、次男坊。