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第3回:母親学級始まる/靴家さちこ

日本では、妊婦さんの為に、ご存じ「母親学級」なるものがある。区でも開催されていたそうだが、私は通院しているA病院が主催するものに参加した。4回に渡って行われたそれは、私のようなへその曲がった人間にはやや息苦しい、健全な空気が漂うものであった。――第一回目は、母体と胎児のための食事や体重管理について。細かい栄養素別の表は、苦手だった家庭科の時間を彷彿させた。

 

第二回目は出産の具体的な経過について。陣痛が始まってから、お腹の中の我が子にご対面するまでのプロセスを学んだ。そこで私は、夫の国、フィンランドでなら当たり前の無痛分娩について聞いてみた。痛み恐怖症の小心者ゆえに、無痛分娩には興味シンシンだったのだ。ところが――助産婦さんは非常に困った顔をして、「胎児にとっても母体にとっても自然なお産の方が・」「麻酔による悪影響のリスクがあります」となんだかんだと言って自然分娩を薦める。――なんで無痛分娩をそんなに嫌がるかなぁ?

 

 家に帰って病院のパンフレットを読み直して合点が行った。「自然分娩と母乳育児」――これこそがA病院のポリシーであり、無痛分娩がしたかったら、あらかじめそれを専門とする病院を選んでおくべきだったのである。――無痛、和痛、水中、アロマテラピーに食事はフレンチ――出産一つにも病院ごとにこんな多様なスタイルやポリシーがあるなんて――私のように、ただ近くで普通に用事だけを済ませたいナマケモノにとって、日本の選択肢の多さは、ただただ面倒くさくありがた迷惑だった。

 

第三回目は、「お乳の手入れ」がテーマ。産後の乳の出が良くなるように、安定期に入ってからのマッサージが薦められ、布製のおっぱいの模型を相手にやってみる。灰色の古ストッキングで作られた、血色の悪い乳首をいじくりまわすこの作業に、私も顔色を悪くし、さらに家でお風呂上がりに実践してみたが、なんだか滑稽で泣けてきた。私は、自分自身がほとんどミルク育ちで、それでも五体満足なので、母乳に対する意識は低かったのだ。

 

第四回目は、質疑応答のコーナーとなっていたが、もはや臨月の私達は、出産の痛みへの恐怖に、産前ブルーになっており、挙がる手もまばらだった。最後に小児科の先生から、赤ちゃんの発達についてありがたいレクチャーをいただいて解散。と思ったら、ちょっとまてぇー。私は、再び助産婦さんを捕まえた。配られたプリントの、「無痛分娩について」の項目に、「日曜の夜は当直の麻酔医がいないため、無痛分娩の処置はいたしかねます」と書いてあるのを見つけたからだ。

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